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IPA&経済産業省の「デジタルスキル標準」が導く、これからのDX

IPA&経済産業省の「デジタルスキル標準」が導く、これからのDX

近代の日本や諸外国の産業構造は、デジタル技術の進化や膨大なデータの活用により、大きな変化を見せています。その状況下で企業がより大きく成長・変革し、今後の市場競争を勝ち抜いていくために重要だとされているのが、デジタルトランスフォーメーション(以下、DX 1)の実現です。

しかし一方で、経済産業省は「日本にはDXの素養や専門性をもった人材が不足しており、DX推進で遅れをとっている」という見解を示しています。

そこに一石を投じ、企業のDX推進を助長すべくIPA(独立行政法人 情報処理推進機構)と経済産業省から、2022年にある指針が公開されました。その名を「デジタルスキル標準」といいます。

今回は、特にこれからDXに取り組もうと考えている方の参考となるよう、「デジタルスキル標準」や、関連する要素についてまとめました。なお、本記事で紹介しているIPAと経済産業省の公式資料(PDF)は、こちらから閲覧・ダウンロードできます。

※1:本記事における「DX」の定義は、経済産業省が定めた下記内容に準じる。
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること

目次

デジタルスキル標準

「デジタルスキル標準」は、ビジネスパーソンがDXについて学習する際や、企業がDX推進を目的とした人材確保・育成を行う際の指針となるもので、大きく分けると下記の2要素で構成されています。この2つの違いは、利用(学習)を想定する人材やカリキュラムの内容です。

DXリテラシー標準(20223月公開)
すべてのビジネスパーソンが身につけるべき、DXに関する能力・スキルの指針。

DX推進スキル標準(202212月公開)
DX推進時の中核となる人材の役割や、その人材が習得すべきスキルの指針。

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出典:「デジタルスキル標準 ver1.0」(IPA / 経済産業省)(P.4 デジタルスキル標準の構成)



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出典:「デジタルスキル標準 ver1.0」(IPA / 経済産業省)(P.5 デジタルスキル標準で対象とする人材)




また経済産業省は、「デジタルスキル標準」の活用について、「デジタルガバナンスコード2.0(※2)」との併用を推奨しており、それを示したのが下図です。

※2:日本企業のDX推進にあたり、経営者に求められる要素を経済産業省がとりまとめたもの。2020年11月に初公開され、2022年9月によりDX推進の実現につながりやすい内容が記された2.0へとアップデートされた。

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出典:「デジタルスキル標準 ver1.0」(IPA / 経済産業省)(P.7 デジタルスキル標準活用のイメージ)




まずは自社がDXによって成し遂げたいことや戦略を考え、次に必要な人材を明確化し、その確保・育成と並行して、全社のDXリテラシーを底上げしていく...という流れをたどることが基本となるでしょう。ちなみに上の図で矢印がループしている部分は、上記の流れで実現できたことを踏まえたうえで、常に方向性の見直しが求められることを示しています。

以降は、「デジタルスキル標準」の構成要素である「DXリテラシー標準」と「DX推進スキル標準」について、それぞれの概要を解説します。

DXリテラシー標準

企業がDXを実現するには、特定の部署や部門に限らず、企業全体が変革への受容性を高める必要があります。そして、そのためには経営層も含めた全社員がDXに理解・関心をもち、「自分ごと」として捉えることが何よりも重要です。

そこで活用すべきなのが、すべてのビジネスパーソンが身につけるべきDXに関する能力・スキルの指針となる、「DXリテラシー標準」というわけです。

「なぜDXが必要なのか」「DXを業務にどう活用すればいいのか」といったDXのリテラシーを学んだ人材は、「自社では◯◯ができそう」という具体的な方向性をもって、変革に向けた行動を起こせるようになります。

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出典:「デジタルスキル標準 ver1.0」(IPA / 経済産業省)(P.11 DXリテラシー標準策定のねらい)



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出典:「デジタルスキル標準 ver1.0」(IPA / 経済産業省)(P.12 DXリテラシー標準に沿った学びによる効果(企業・組織))




4つの大項目

DXリテラシー標準」は下記4つの大項目で構成されており、さらにそれぞれの中で細かく学習すべき要素が案内されています。

Why
「なぜDXが必要なのか?」という理由や背景。社会・顧客価値・競争環境の3つの「変化」について記述されています。たとえば「SDGsSociety5.0などの社会全体に関わるキーワードは、前提知識として学んでおきましょう」といった内容です。これらを正しく理解することは、DX推進の意義を見いだすことにつながります。

What
データ・技術の種類や活用方法。DX推進の要となるデータや、AI・クラウド・ネットワークといった技術への理解を深めることの重要性が説かれています。自身がこれらを活用するポジションではない場合でも、記載されている用語とその概要程度はおさえておくとよいでしょう。

How
データ・技術の活用事例。実務でどのように利活用されているかという基礎知識をはじめ、セキュリティ・モラル・コンプライアンスといった留意点などが解説されています。

■マインド・スタンス
DXリテラシーを身につける人材に求められる心構えを示した、基礎・土台となる部分。顧客やユーザーへの寄り添い・環境や仕事への柔軟な対応・発想力などを磨くための要素について記述されています。

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出典:「デジタルスキル標準 ver1.0」(IPA / 経済産業省)(P.16 DXリテラシー標準策定のねらい)




ちなみに「DXリテラシー標準」は2023年8月に内容が改訂され、生成AIの項目が追加されました。これについてIPAは、下記のように述べています。

生成AI等の新しい技術の登場・普及がビジネス変革や生産性向上に影響を与える一方で、情報の真偽を判断するのが難しくなるなど、DXに関するスキル・リテラシーの重要性が増しています。 このような状況を踏まえ、 図2の通り2023年8月にDXリテラシー標準を一部改訂しました。」

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出典:「デジタルスキル標準 ver1.1」(IPA / 経済産業省)(P.18 デジタルスキル標準の改定<要旨>(2023年8月)

 

学習すべき要素の詳細

公式資料そのものは「DX推進に不可欠な、さまざまな要素を網羅的に把握するための補助ツール」というイメージです。

公式資料の各ページでは学習内容に関する補足説明や、人材が実際にとるべき行動・学ぶべき項目が例示されています。「まず何をすればよいか分からない」という場合には、各ページ右下に書かれた例を参考にするとよいでしょう。

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出典:「デジタルスキル標準 ver1.0」(IPA / 経済産業省)(P.26 マインド・スタンス - 変化への適応)


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出典:「デジタルスキル標準 ver1.0」(IPA / 経済産業省)(P.33 Why - 社会の変化)




セグメント別の活用方法

章の後半では4つの大項目ごとに、「組織・企業」「個人」「教育コンテンツ提供事業者」という3つのセグメントにおける活用方法が示されています。学習の計画を立てる際には、こちらを参考にしましょう。

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出典:「デジタルスキル標準 ver1.0」(IPA / 経済産業省)(P.51 DXリテラシー標準の活用方法 - 大項目別)



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出典:「デジタルスキル標準 ver1.0」(IPA / 経済産業省)(P.52 DXリテラシー標準の活用例 - マインド・スタンス(1/2)



DX推進スキル標準

DX推進スキル標準」は、DX推進時の中核となる人材の役割や、その人材が習得すべきスキルを示した指針です。

DX推進においては、専門知識をもった人材の活躍が不可欠だと言えます。しかし経済産業省は「日本企業がDX推進に特化した人材を十分に確保できておらず、その背景として各企業が自社のDXの方向性を描くことや、自社に必要な人材の把握などに対する課題がある」と指摘しています。

そうした課題の解決策として期待されるものが「DX推進スキル標準」であり、企業はこの指針をもとに採用や育成などの活動を行うことが推奨されているのです。

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出典:「デジタルスキル標準 ver1.0」(IPA / 経済産業省)(P.59 DX推進スキル標準の必要性)



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出典:「デジタルスキル標準 ver1.0」(IPA / 経済産業省)(P.60 DX推進スキル標準策定のねらい)




人材類型とロール

DX推進スキル標準」では企業のDX推進において必要な人材のうち、主要なポジションを5つの「人材類型」として定義しています。また各類型の中には、活躍する場面や役割の違いを想定した24つの「ロール」が設定されています。

■ビジネスアーキテクト
DXで実現したいこと(目的)を設定したうえで、関係者をリードする人材。

■デザイナー
ビジネス・顧客・ユーザーの視点を総合的にとらえ、製品・サービスの方針や開発プロセスを策定し、その在り方をデザインする人材。

■データサイエンティスト
業務変革や新規ビジネス実現に向けたデータの利活用や解析といった仕組みの設計・実装・運用を担う人材。

■ソフトウェアエンジニア
デジタル技術を活用した製品・サービスを提供するためのシステムやソフトウェアの設計・実装・運用を担う人材。

■サイバーセキュリティ
業務プロセスを支える、デジタル環境のセキュリティ対策を行う人材。

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出典:「デジタルスキル標準 ver1.0」(IPA / 経済産業省)(P.68 ロール一覧)




DX
推進時には、可能な限り人材類型とロールをまんべんなく揃えた体制を整えることが望ましいですが、自社内のみですべてを完結させることが難しい場合も多いことでしょう。

その際は自社のビジネスやDXの方向性を鑑み、内製(人材育成)と、外部委託などをうまく使い分けましょう。
 

共通スキルリスト

「共通スキルリスト」は、人材類型・ロールを問わず、DX推進時に人材に求められるスキルが示されたものです。

大別するとビジネス変革・データ活用・テクノロジー・セキュリティ・パーソナルスキルの5カテゴリーに分かれ、そこからさらに12のサブカテゴリーと、それぞれに紐づくスキル項目が定義されています。

また各スキル項目に対し、人材が学習すべき詳細な項目も示されています。育成計画の参考として活用しましょう。

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出典:「デジタルスキル標準 ver1.0」(IPA / 経済産業省)(P.69 共通スキルリストの全体像)



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出典:「デジタルスキル標準 ver1.0」(IPA / 経済産業省)(P.70 ビジネス変革|戦略・マネジメントシステム)




各人材類型の詳細

各人材類型の詳細について書かれたページには、それぞれの詳しい定義・期待される役割・ロールやスキルなどがまとめられています。この部分を読み解くことで、人材が目指すべきところを明確にすることができます。

なお、必要なスキルの項目では重要度も併記されているため、特に重要度の高いものから習得を目指すのがよいでしょう。

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出典:「デジタルスキル標準 ver1.0」(IPA / 経済産業省)(P.80 ビジネスアーキテクトとは|期待される役割(1/2))


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出典:「デジタルスキル標準 ver1.0」(IPA / 経済産業省)(P.84 ビジネスアーキテクトのロール|担う責任・主な業務・スキル(1/3))




セグメント別の活用方法

DX推進スキル標準」も「DXリテラシー標準」のように、「組織・企業」「個人」「研修事業者」の3つのセグメント別に、活用イメージが示されています。

DX推進スキル標準」に関わるプロジェクトの開始時は、まずこの内容を軸に計画を立ててみてはいかがでしょうか。

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出典:「デジタルスキル標準 ver1.0」(IPA / 経済産業省)(P.138 活用イメージ)



DX認定制度

デジタルスキル標準とは別に、企業のDX推進に関わる要素として「DX認定制度」があります。これは分かりやすく言うと、「この企業はDX推進にきちんと取り組んでいる」というお墨付きを、経済産業省からもらえるというものです。

経済産業省は、企業におけるDXの推進指標(レベル)を、下図のように4段階で示しています。「DX認定」の取得対象となるのは、この下から2番目、「DX-Readyレベル」に該当する企業です。記載のレギュレーションによれば、「DX推進の準備が整っていること」が「DX認定」の取得条件となっています。

2023_0710_スマファク19.png出典:経済産業省ウェブサイト(https://www.meti.go.jp/press/2022/09/20220927002/20220927002.html



なお「DX認定」取得までのフローは下図の通りで、まずはIPAへの申請が必要です。

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出典:経済産業省ウェブサイト(https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dx-nintei/dx-nintei.html




DX認定」を取得した企業はIPAが運営する「DX認定制度 認定事業者の一覧」に掲載されたり、DX認定ロゴマークを自社のWebサイトや名刺に使ったりできるため、社会的信用や企業価値の向上に期待がもてます。また、税額控除や低金利での融資(中小企業限定)などの支援が受けられるなどの、金銭的メリットを享受できることも特徴です。
 

DX銘柄

DX認定」を取得した企業のうち、東京証券取引所に上場している企業は、「DX銘柄」選定への応募資格を得られます。「DX銘柄」は、先に示した図で見ると、「DX認定」よりも上位に存在しています。

すなわち「DX銘柄」に選ばれるのは、DX推進を積極性をもって実現しており、かつ優れた実績を残した企業です。これに選定された場合、発表会やWebで企業名が公表されるため、まさに企業として箔がつくと言えます。DXの実現を目指すにあたっては、「DX認定」の取得や「DX銘柄」に選定されることをひとつの目標としてみるのもよいでしょう。

なおマクニカは202351日付で「DX認定」を取得したため、次はDX銘柄に選定されることを目指してまいります。

まとめ

今回はIPAと経済産業省が公開した「デジタルスキル標準」や、それに紐づく「DX標準リテラシー」や「DX推進スキル標準」の概要を紹介しました。

記事内でも取り上げた公式資料は全140ページとボリュームがあり、かつ1ページあたりの情報量がやや多く、専門用語も少なくありません。そのため、しっかりと読み込んで内容を理解するのには、相応の時間がかかることは必至です。

しかし、そもそもDXの実現は一朝一夕で成るものではありません。焦らず、学習する人材のペースに合わせ、そのときどきで必要な部分の理解を少しずつ深めていくとよいでしょう。

本記事をきっかけに、DX推進に興味をもってくださる方が1人でも増えれば、大変うれしく思います。


 

■「デジタルスキル標準」公式資料(PDF)
https://www.meti.go.jp/press/2022/12/20221221002/20221221002-2.pdf

■「デジタルスキル標準」公式資料(PDF)2023年8月改訂版
https://www.ipa.go.jp/jinzai/skill-standard/dss/ps6vr700000080fg-att/000106869.pdf

※改訂版では「DX推進スキル標準」など、一部のページが省略されています


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