社会課題を解決できる可能性を秘めた「CPS(サイバーフィジカルシステム)」 とは?
近年ではさまざまなモノがインターネットに接続され、データがやり取りされることが当たり前になっています。
たとえばパソコンやスマートフォンといったIT機器、自動運転車を代表としたスマートモビリティや、リモコン・カメラ・スイッチへどこからでも集中管理可能なスマートホームなどが挙げられます。
しかし、そこから得られる膨大なデータを有効利用できずに、そのまま放置していたり、どのように活用するか頭を悩ませたりしている企業も多いのではないでしょうか。
そのような状態を回避すべく、いま注目されているのが、データを扱う「サイバー空間」と、現実世界である「フィジカル空間」を融合させてデータを循環させるCPS(サイバーフィジカルシステム)という仕組みです。
今回はCPSの概要と、マクニカが取り組むCPSの事例をご紹介します。
データの新しい価値を創出するCPS
まずは、CPSの考え方についてご説明します。CPSには大きく分けて、3つのステップがあります。
①センサーでフィジカル空間(現実世界)のデータを収集する
②収集したデータをサイバー空間(クラウド)に蓄積してAIで分析する
③分析した結果を、ダッシュボードやロボットを使ってフィジカル空間にフィードバックする
CPSはこれらをループして実行することで、その価値を増幅させていきます。
①〜③の流れを、自動運転を例に考えてみましょう。
自動運転に対応した自動車にはさまざまなセンサーが取り付けられており、それらが前後車両の距離・人の有無・道路状況といった周囲の状況をデータ化します。
そのデータをAIが分析し、安全に目的地まで運転するための各種パラメータを算出します。そしてこの分析結果をステアリングやエンジン制御部にフィードバックすることで、"人が操作しなくても自動で目的地までたどり着く"という大きな価値を実現します。
このように、フィジカル空間とサイバー空間でデータを循環させて実際にモノを制御することで、センサー単体やAI単体では達成できない大きな目的を達成するのがCPSです。
マクニカがCPSに注力する理由
近年ではAIの発達やインターネット環境の著しい充足と成長に伴い、社会課題も多様化・複雑化しています。
そうした課題は単一の製品による解決が難しいため、さまざまな製品を連携させてCPSを構築し、新しい解決策を導き出すことが重要視されています。
私たちマクニカは、センシング技術を活用する半導体事業などで携わったフィジカル空間と、ネットワーク導入やセキュリティ支援などで携わったサイバー空間、双方の知見を活かし、CPSを社会課題解決に活用したいと考えています。
具体的には、最先端のセンサーを導入してフィジカル空間の情報をデータ化したり、400件以上のAIを社会実装してサイバー空間でのデータを分析を行ったりしてきました。また分析結果をフィジカル空間にフィードバックするのに必要なロボットなどのハードウェアや、ダッシュボードなどのソフトウェアも数多く手掛けています。
このようにCPSの全体を俯瞰し、さまざまな企業と共創しながら未来を見据え、今に実装することが私たちの大きな目標のひとつです。
以降は、マクニカにおけるCPSの取り組み事例をご紹介します。
【事例1】フード・アグリテック
再現性の高い農業の実現
植物を栽培するビニールハウス内に、カメラ・センサー・収穫ロボティクスを設置することで、温湿度・照度・土壌成分といった環境データを植物の光合成や蒸散、見た目の変化などの生育データを取得します。
さらにAIによるデータ分析とダッシュボードでのデータの見える化を行うことで、収穫量の予測とそれに付随する労務管理、熟練者の技術継承を可能にします。 また、フィードバック部分としてロボティクスや環境制御の実装、ICTも併用することで、都市部からの遠隔農業の実現を可能にします。
フードロスの削減
食品の流通・加工・販売の各プロセスにおけるデータを連携させ、AIによって販売予測を行うことで、消費と生産の需給をマッチングさせます。消費者には適正な量の食事を提供し、飲食サービス業者には適性な仕入れを行うことで、企業価値の向上や仕入れの適正化を実現します。
かつ発生してしまった食品残渣に関してはバイオテクノロジーによる堆肥化を行い、良質な農業生産につながる循環型の仕組み構築を目指します。
食品加工プロセス可視化
食品の加工工程において、味覚センサーやガスクロマトグラフィーを用いて食品の味や成分をデータ化し、分析とフィードバックを行うことで、加工プロセスの最適化と高付加価値化に貢献します。
例としては日本酒の発酵プロセスのモニタリングや、電気化学測定によるアミノ酸分析などが挙げられ、これらが生産計画・品質管理・製造コスト改善・商品開発に貢献します。
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【事例2】スマートマニュファクチャリング
プロダクトライフサイクルの最適化
製品の設計、製造、販売、アフターサービスなどの各段階を連携させることで、プロダクトライフサイクル全体が連動したサービスの提供が可能になります。
たとえば、センサーデータや組み込みシステムによって製品のパフォーマンスや状態をリアルタイムでモニタリングし、予防保全や効率的なメンテナンスを行うことができます。また、製造プロセスの自動化やデータ分析による品質向上も実現します。
柔軟な生産ラインの構築
生産ライン内の機械やロボットだけでなく人の導線や挙動などもデータとして連携させることで、変更に対する柔軟な対応やそれに伴う人の負荷、付帯作業を可視化できます。
これにより、製品の変更やカスタマイズに対応した対応と作業者のWell Beingの両立が可能になります。
また、環境や位置などさまざまなセンサーデータを追加していくことで、より現実に近いシミュレーションが可能となり、生産プロセスの効率改善や問題の早期発見も行えます。
サプライチェーンの可視化と最適化
製品や部品のRFIDタグなどを活用し、物流や在庫のリアルタイムなトラッキングを行うことができます。
これにより、需要予測や在庫管理の最適化、生産計画の調整などを効率的になります。また、サプライヤーとの連携強化や情報共有によって、サプライチェーン全体の効率化やリスク管理も向上します。
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【事例3】スマートシティ/モビリティ
データ駆動型まちづくりの実現
地域の課題解決や活性化に向けて、ICTをはじめとするデジタル技術を活用することで、地域のデジタル実装を加速させます。
また、多様なセンサーなどで取得した地域のリアルタイムデータをもとに、デジタル空間で分野横断的なデータ連携を支える基盤(都市OS)を構築します。
さらに、流通するデータを利活用して現実空間へフィードバックすることで、新たな価値を創出し、地域サービスを高度化することができます。
社会インフラの維持・管理を自動化
自動車やバイク、ドローンなどのモビリティにカメラや振動センサー、LiDARなどのセンサーを搭載し、モビリティが走行する周辺環境のセンシングデータを収集します。
収集したデータをAIで分析することで、道路のひび割れや電柱の傾きなどの異常を自動で検出し、異常箇所の位置情報や異常の程度を画面上で可視化します。これにより、社会インフラの維持・管理を効率化することができます。
人・交通の量と流れの把握
LiDARセンサーと物体認識アルゴリズムによって、歩行者・車両の識別や対象物との距離を計測するシステムを構築します。
また、LiDARセンサーによって取得した点群データの分析結果をダッシュボード上に反映し、リアルタイムに状況を可視化します。これらの情報は人と交通の量・流れを正確に把握することに役立ち、交通施策やマーケティングの策定などに活用できます。
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異業種との共創によって、「現場で役立つCPS」を実現したい
事例でご紹介したとおり、マクニカはお客様が解決したい課題に合わせて、それぞれの業界におけるトップランナー企業と共創しながらCPSを構築しています。
その中でマクニカが特に強みをもち、パートナーから求められることが多いのは、サイバー空間におけるAI技術です。ただし、AIを効果的に利用するためには、どのようなデータを扱うかが重要となります。
マクニカは半導体の技術商社として長年お客様をサポートしてきた経験や、多くの製造業やIT企業様とのお付き合いなどで得た知見を活かし、最適なセンサーのソーシングおよび実装を行うことで、効果的なAI分析を実現します。
そして今後は、より幅広い業界へサービスデザインをしていく必要があると考えています。
そのためには「この業界における課題は何なのか?」「現場の方に使っていただけるためにはどういうデザインが必要か?「どういう状態になったら課題が解決したと言えるのか?現場とのずれはないか?」を正しく把握しつつ、業界知見に詳しい方と連携することが不可欠です。
マクニカはこうした取り組みを通じ、これからも社会課題解決のため、現場で役立つCPSを構築してまいります。DXやCPSに興味をお持ちで、「パートナーを探している」という企業様、ぜひマクニカと共創してみませんか。
【マクニカの共創活動】
https://www.macnica.co.jp/co-creation/