いざ技と知の金脈へ!
次世代テクノロジーを求むイノベーター向けメディア

フード・アグリテックで拓く新たな価値~実証実験で見えた今と未来~

フード・アグリテックで拓く新たな価値~実証実験で見えた今と未来~

世界人口の増加、フードロス問題、カーボンニュートラル、地政学リスクなど、近年は「食と農」を取り巻く課題が顕在化しています。人間のあらゆる生産活動の原点となる食と農を安定的・持続的なものにしていくことは、第1次産業に限らず第2次、第3次産業など、さまざまな業界が連携していくべき重要なテーマです。本記事では、食と農における社会課題と先端技術による解決方法について、山梨県北杜市に本社を構えるアグリマインド社 の農場におけるアグリテックの実証実験事例を交えながらご紹介します。また、植物生体情報に基づいた革新技術をもとに農業の活性化に取り組むPLANT DATA社とともに、フード・アグリテックにおける現在の取り組みや今後の展望について解説します。

目次

農業生産者が"今"必要なソリューションを構築する

近年、農場の現場では労働力不足が大きな課題になっています。

「農業は繁閑期の差が大きいので、年間を通して安定した雇用を生み出しづらいんです。また、エネルギーを含めた物価の上昇、そして需給の調整も課題になっています。」(藤巻氏)

このような課題を解決すべくマクニカ、PLANT DATA、アグリマインドの3社で実証実験を開始しています。これは、光合成、蒸散測定、および画像計測装置等の生育データおよび、各種環境データを用いて、マクニカのAI分析によって収穫量の予測や最適化、生産品の品質の向上、エネルギーの効率化など、生産者の付加価値向上につながるプラットフォームサービスを構築しようとするものです。

スライド5.JPG

「以前、私は農林水産省の人工知能未来農業創造プロジェクトに参加しました。そのプロジェクトでは、植物の生命現象をモデル化して、その制御の自動化や経済合理性の向上などに利用するという目標に掲げていました。データを使って農業をスマート化するだけでなく、収穫ロボットを使って人の作業を自動化するアプローチも検討しましたが、完全自動化にこだわるあまり、実用化にブレーキかかってしまう懸念がありました。今回の実証実験では、過去の反省点を踏まえ、アグリマインドの実需、操業的に生産者に使っていただける形でソリューションを出していきました。その目標の合理化がある程度できてきているので、データ活用によってさまざまな効果が得られるのではないかと期待しています」(北川氏)

スライド6.JPG

生産だけでなく、流通・販売も巻き込んでフードロスを考える

また、生産と同様に流通・販売のスマート化も非常に重要なテーマです。

「例えば、2週間後の予測データがあったとしても、8割~9割の成果物はアナログ取引で運用されているので、なかなかデータが価値を生めない。つまり、経済合理性を上げる手段として活用できないわけです。アナログになっている受発注や物流手段の枯渇といった問題を、いかにデジタル化していくかがビジネスとして重要なのです」(北川氏)

また、流通の面ではフードロスの問題があります。例えば、トマトは4月~7月に収穫期となり大量に収穫できますが、その時期には市場にトマトがあふれてしまい、必然的に販売価格が下がってしまいます。この場合、生産者によっては時期をずらして生産するという選択肢を取るケースも出てきます。ですが、収穫時期をずらすだけでは根本的なフードロスの解決につながらないため、流通側の問題の解決も非常に重要です。

「価格転嫁が難しい点は日本独特の課題です。最終売価を上げられないと、いくら上流で頑張っても限度があります。物流も同様で、荷主が物流費を払えず、2030年には3割の物が運べないという話もあります。価格転嫁ができないことで市場そのものがなくなる懸念があるのです」(北川氏)

生産者の知見と技術の融合でスマート農業を推進

いまでこそスマート農業という言葉は一般的になってきましたが、一方で「うまくいかない」「収益化が難しい」という声も聞きます。誰でも簡単にスマート農業が実現できる世界を創ることはできるのでしょうか。

「スマート農業において、"誰でも簡単に"というアプローチは非常に難しいと思います。本当に誰でもできてしまったら、我々農家たちの商売が成り立たなくなってしまうので、段階の踏み方も大事です。例えば、ある段階で農家や、我々のような先駆者がスマート農業を広げる役割として入っていく。そういったケアをしていくことで、未来に進んでいくのではないでしょうか」(藤巻氏)

「"誰でも簡単に"という点では農家の理解が得られないかもしれません。過去のプロジェクトで、現場で得られたデータを現場の方に解釈してもらうために勉強会などを積極的に実施した時期があったのですが、このアプローチはかなり苦しかった経験があります。そのため、データを解釈させるのではなく、栽培のノウハウや植物生理学の知見を持つ方が遠隔で現場を把握し、コンサルする。または遠隔から環境制御システムを制御する。これらは自動化しなくてもできるので、こういった形でソリューションへの落とし込むのが良いのではないでしょうか」(北川氏)

スライド10.JPG

経験と勘で商業的に生産している、いわゆる篤農家として評価されている方に、AIやシステムを直接使わせるのは高いハードルがあります。AIやシステムによる完全自動化ではなく、それらと人間が協調するようなセミオートマチックのフェーズが必要なのです。そうして新しい農業生産の体系を築くことが重要です。これにより、国内外の農業生産現場を遠隔で日本から把握をして制御をするといったことも実現できます。

作業用ロボティクスの完全自動化が難しい理由はいくつかあります。現在の農業生産現場は人間が快適に作業できるように設計されていて、ロボットには最適化されていません。同じ空間に人間とロボットを共存させることは、安全面も含めて難しいため、低遅延のローカル5Gインフラ上で作業用ロボティクスを遠隔で制御するなどの工夫が必要です。

スライド11.JPG

食農バリューチェーン全体でのスマート化が社会課題の解決につながる

食と農の発展のために今後どのような活動が求められるのでしょうか。マクニカでは、フード・アグリテック分野は社会課題と密接に関係していると考えています。そのため、生産から消費まで、食のバリューチェーン全体を俯瞰して、社会課題の解決に取り組んでいます。

まずは農業分野の課題に着目したプラットフォームの構築です。内閣府が発表したバイオ戦略に関するロードマップによると、今後スマート化に積極的に投資を行う姿勢を見せています。ここでいうスマート化は農業だけではなく、調達から流通、加工、販売に至るまでさまざまな領域のスマート化を指します。

スライド14.JPG

「分野が広いので、なかなか統一感を持ったソリューションが出てくるのは難しいと思いますが、川上だけでなく川下も含めて物事を考えるとともに、いかにしてゴールとなる消費者に届けていくのか。その組み立て方が非常に重要になると思います」(藤巻氏)

「アグリマインドについては、世界的にも空間あたりの生産性が高い企業だと思いますが、日本の農業全体に目を向けるとスマート技術の現場実装があまり進んでいません。ただ、アライアンスを組むことによる先行優位は十分に期待できます」(北川氏)

食料生産だけでなく、業種業界の垣根を越えたアライアンスも必要です。例えば、2012年に農林水産省では食品として流通させる前提で花粉症軽減米や糖尿病抑制米など、薬効を持った遺伝子組み換え稲の普及を計画していました。技術的には実現しましたが、制度面で実用化まで至っていない状況です。もし、日本政府が規制緩和に乗り出したら、食品×医療というような業界の垣根を取り払う機会につながります。こうしたアライアンスをきっかけに異業界同士のコラボレーションが生まれるかもしれません。

スピード感のあるソリューション提供と長いスパンでの運用保守サポートに期待

「これまでも数々の企業が農業の分野に参入してきましたが、結局のところソリューションとしてリリースに至らないケースが多く見られました。マクニカには、商社というポジションを生かしてさまざまなハードからベストなものを選択し、それに合わせたソフトを組み合わせたスピード感のあるソリューションを提供していただきたいです」(藤巻氏)

「現在は自動運転のデータは多いものの、農業に関するデータは少ないのが現状です。そのため、AIや統計モデルなどの分析手段の拡充によって、取得したデータを利用者にとって価値がある情報として使えるようにしてほしいと思います。さらに、事前調査から設置、稼働後の長いスパンにおける運用保守については世界的にもサポートしている企業が少ないので、ぜひマクニカに旗を振っていただきたいですね」(北川氏)

マクニカでは、持続的・安定的な食料供給を目指し、データをフィジカルに実現するためのハードウェアやAIを"今"に実装することで、アグリマインド・PLANT DATAとの共創活動を推進してまいります。

\本記事の内容を、動画でご視聴いただけます/

動画を見る.jpg