いざ技と知の金脈へ!
次世代テクノロジーを求むイノベーター向けメディア

農業大国オランダで、先進技術を発掘せよ! 出張対談レポート【後編】 

農業大国オランダで、先進技術を発掘せよ! 出張対談レポート【後編】 

いま世界では人口が右肩上がりで増加しており、2030年には85億人に達すると言われています(2023年時点では、約80億5,000万人)。そしてこの事実は、世界的な食料需要が今後大きく増加することをも意味します。 

より生産性が高く、持続可能な農業や飲食関連産業などの実現が求められるなか、注目されているのが、食と農における技術革新「フード・アグリテック」です。ちなみに「農業」「農学」といった意味をもつ「アグリ」と、「テクノロジー(テック)」が合わさったものが、「フード・アグリテック」の由来です。 

マクニカは2022年からフード・アグリテック事業に本格的に取り組みはじめ、ソリューションの開発や、世界のさまざまな技術のソーシングなどを行っています。今回はその一環として、先進的かつ優れた農業の技術をもつオランダに3名のクニカ社員が出張。現地の視察および、農業関係者向けの展示会「GreenTech2023」への参加を実施しました。 

本記事では、彼らがオランダ出張で得た知見などをインタビュー・対談形式でとめています。 

なお本記事は【前編】と【後編】に分かれており、【前編】はオランダの農業や風土の話、【後編】はGreenTech2023の話が中心となっています(特に、小林による回答がメイン)。 

【前編】はこちらからどうぞ!

2023_0801_オランダ出張_01.png

目次

技術&環境に大差アリ! オランダと日本の農業 

――ここからは、GreenTech2023(以下、展示会)のことや、そこで得られた情報などについてうかがっていきます。まず今回は、どんな目的があって参加したのですか? 

小林:オランダのアグリテック分野における最新技術やビジネスモデルと、それらを日本に展開するために協業すべき企業などの調査が目的でした。この展示会では農場などの現地視察イベントもあって、僕たちは5ヶ所を見に行きました。 

結果としては、展示会を通じて多くの方とコミュニケーションをとることができ、オランダの企業が想像以上に日本のマーケットに興味があることが分かりました。ただ「日本で仕事をしたことがありますか?」と質問すると、「ない」という方が多かったので、日本市場への参入はまだまだというのが実情かなと。 

2023_0801_オランダ出張_02.jpg


――オランダの方は、日本のどこに魅力を感じているのでしょう?
 

小林:今回は具体的な回答は得られませんでしたが、「日本の技術は先進的で、すごいよね」という話はよく聞きました。そこに期待感があって、タッグが組めそうだということは、多くの方が感じているのだと思います。 

――展示会や現地視察に参加してみて、オランダのアグリテックにどんな印象をもちましたか? 

小林:やはり、日本では珍しい農業の技術を取り入れていますね。この(下の)写真は、本村さんが現地の先進農家に訪問したときのものです。 

2023_0801_オランダ出張_03.png

ツタの下部分には白いビニール状の、土や肥料が入っているパックがあります。
こういったパックを使って育てるのが、オランダ式のハウス栽培だそうです。


本村:ちなみにスーパーのトマトよりも、この農家でもらったトマトの方が断然おいしかったです。栽培管理なんかも全部データドリブンでやっていて、最適な時期や状態で収穫できるからですね。 

小林:あとオランダと日本の施設園芸における差としては、地形・気候・日照・湿度などの条件がありますね。オランダの方が、日本よりも適した条件が揃っています。 

2023_0801_オランダ出張_04.png


施設園芸は、農地が大きくなればなるほど生産性が良くなるし、より作業を効率化できます。日本でもオランダ式のハウス栽培を採り入れている農家があるようですが、その数は
10件にも満たないそうです。山梨県の北杜市など、日照量が多いところで大規模な施設園芸をしている農家もあるものの、やはり地理的条件や気候の差による影響は大きいのだと思います。 

一方でAIやソフトウェアなどのテクノロジーに関しては、展示会の内容を見た限り、日本も劣っていないというのが今回出張した3人の意見です。テック系の出展企業も、ソフトウェアよりハードウェアの方が目立っていました。 

――オランダと日本の違いについてお話いただきましたが、逆に共通点はありますか? 

小林:はい。共通しているのは、野菜の販売単価低下という課題ですね。これは重要なことだと思っています。僕はオランダに来てから、物価は日本より高いのに、サラダが安いことが気になっていました。 

そんななか、展示会の2日目に業界のリーダーとディスカッションをするワークショップがあって、僕と岩田が参加したんです。6人1組のテーブルが5~6つ用意され、各テーブルごとにSDGsのテーマが儲けられており、それについて各テーブルごとに2時間くらいフリーディスカッションをするという内容でした。 

僕たちのテーブルのテーマは「グリーンハウスが今後どうなるべきか」というもので、「とにかく作物における販売単価低下が大きな問題だ」「これを改善しなければ、生産現場にどれだけテクノロジーを導入してもまったく意味がない」「たくさん作れば作るほど市場原理で価格が下がり、消費者に届く頃には儲けがほとんどないほどに安くなってしまう」といった課題がディスカッションで挙がりました。 

2023_0801_オランダ出張_05.png

またその対策として、スーパーマーケットなどで顧客に高く買ってもらうためのマーケティングやブランディング、陳列などをするにはどうすればよいか、といったことも話しました。ちなみに、僕たちのテーブルにはオランダ人・イギリス人・アメリカ人・日本人がいたのですが、どの国も同じような課題を抱えていることが分かりました。 

いま、日本もオランダの技術などを踏襲しながら先進農家を増やそう、環境制御をしていこうといった取り組みを始めています。しかし「行き着く先、つまり売るときのことも考えて改善をしなければならない」ということを、このディスカッションを通じて、とても強く感じました。 

――消費者に価値を感じてもらうには、品質を高めることも大事ですね。

小林:そうですね。「品質が高くておいしい特別な商品」と、「品質は普通だけど安い商品」を明確に分けるなどすれば、消費者も買い分けてくれるかなという話もありました。品質を高めたうえで認知してもらうことも、やはり重要だと思います。

日本でも使えそうなオランダの技術は?

――「オランダの技術やビジネスモデルを日本でも展開したい」とのことでしたが、そちらの首尾はどうでしたか? 

小林:当初は「オランダで最先端技術をたくさん見つけて、あれもこれも! という感じで、日本で展開したい」と思っていました。でも実際は農業の環境や規模がまったく違っていたので、「そのまま持ち帰るには難しい場合も多い」という気づきがありました。

また先ほどお話したワークショップには韓国の企業もいて、調べてみると、韓国は日本と土地・気候・農家の数・課題感などがすごく似ていることが分かりました。なので、オランダ以外の国からのソーシングを検討してみることも、重要かなと。 

2023_0801_オランダ出張_06.jpg

ただオランダの技術が日本でまったく使えないかというと、そんなこともないかなと思っています。たとえば大規模なオランダの施設園芸では、除湿機を使っているんですね。というのも、施設園芸は湿度が高いと病気が発生しやすく、かつ密閉空間なので、病気が発生すると一気に蔓延し、作物が全滅してしまうことがあるからだそうです。 

一方で、日本でオランダ式のハウス栽培をしている農家では、除湿機がまだ全然使われていないらしくて。とはいえ日本は年中湿度が高いので、今後除湿機の需要が高まる可能性もあるのではないか、と考えています。また除湿機に関しては、岩田が詳しく調査してくれました。

岩田:オランダはエネルギーコストが日本より先行して上がっているので、熱や水を再利用するといったSDGsの観点も含めて、環境に優しい除湿機を提供している企業がすでにあります。また日本への本格参入を目指している企業が、日本で実験を行っているケースもあるようなので、今回の展示会では除湿機に重点を置いてヒアリングしました。 

ただグリーンハウスの環境制御は特殊で、基本的に温度や湿度を管理するクライメイトコンピューターが使われています。たとえばあるメーカーでは、1つのグリーンハウス内に8種類の環境を作って、色々なお花を同時に育てられることを展示で紹介していました。 

つまり除湿機も一般的なものではなく、グリーンハウス向けの制御可能なものが使われているのですが、それらは現状まだそこまで多くは普及していないようです。 

2023_0801_オランダ出張_07.png

本村:環境制御と言えば、全自動でレタスなどの葉物野菜をいろいろと育てているグリーンハウスもありました。ここではある野菜の真隣で、まったく別の野菜が栽培されていて。で、5分に1回くらい水がシュッて自動で噴射されたり、上の方に設置されたレールをカメラが自動で移動して、生育状況をAIで判断しているんです。

2023_0801_オランダ出張_08.png

小林:日本でも一部の都道府県に2~3件ぐらいなら、こういった取り組みをしている農家もありますね。僕と岩田は以前、鹿児島県の東串良町で、キュウリを栽培しているハウスを訪問しました。広さは1ヘクタール(※1)くらいで、九州の環境整備型ハウスのなかでも、1番大きいぐらいの規模でした。 

※1:一般的なサッカーコート1.4面分ぐらいの大きさ。

本村:展示で言うと、家庭とかレストラン向けの、ミニ植物工場の開発・設計・販売をしている企業が面白かったですね。 

――自家栽培をテクノロジー使ってやります、みたいな。 

小林:そうですね。湿度調節・照明・給水の自動化とか、LEDを使った促成栽培ができたりします。自家栽培ができれば採った野菜をすぐに使えるし、バリューチェーンの工程を減らせます。それによって、作物の運送の過程で排出される二酸化炭素の削減にもつながるところも、メリットとして大きいと思います。 

岩田:私は、この製品のターゲットが農家ではない点がよいなと思いました。特に日本の農家は助成金などの縛りが結構多いので、そういう枠の外にいる人たちに向けて、こういったフードテックを提供できる可能性があるという意味で、非常に面白い試みですね。

小林:あとは、植物工場向けのSaaSを提供している企業を知れたことも良かったです。マクニカでも「NEXTAGE」というパートナー企業と植物工場向けのシステム開発をしていますが、実はそういうサービスって、日本だとほとんど知られていなくて。 

だから海外にこういう企業があるんだなというのはすごく参考になるし、この会社のサービスは、UIもすごくカッコよかったので、デモを見てきました。ちなみにサービスとしては、生産管理の計画とか、データの制御とかを自動でやってくれるものになります。

さらに別の企業で、植物の生体信号を計測するセンサーおよび、それとセットで使うサービスを売っているところも面白かったです。植物に電線を巻き付けて先端部分を茎に刺すと、なんと植物のストレス値を計測して、病気や発育不良をショートメールで栽培者に通知してくれるという。 

この企業は国の研究機関ともつながっているので、生産者が自分で病気の原因や改善策を判断できない場合は、ショートメールとかメッセンジャー経由で、専門家に質問もできるそうです。 どれも聞いたことがなかったので、こういったものをぜひ日本で展開してみたいですね。 

展示会終了後に、まさかの打ち上げパーティー!?

――展示会で、ほかにはどんなことが印象に残りましたか? 

小林:僕は、印刷物の配布が少なかったことが印象的でしたね。ラインナップのパンフレットは2~3置いてありましたけど、あとは椅子と机だけが置いてある商談ブースがあって、すごいざっくばらんな展示員が肘かけながら「Hello」って言ってくるイメージです。 

資材メーカーなどがちょっとした植物工場など、モノの展示をしていることも当然ありましたけど、日本の展示会みたいに物を詰め詰めで置いたりとか、スペースがあるから壁に何かを貼り付けて...というのはなかったですね。 

2023_0801_オランダ出張_09.jpg

岩田:確かに農業コンサルみたいな企業はシステムを見せるPCが置いてあるくらいで、あとは基本的に、お茶を飲みながら商談するスペースがあるという感じでしたね。 

本村:私は世界最大規模の農業ICT(※2)企業が出展しているというので観に行ったら、ブースだけを構えていて、何も展示していなかったことが衝撃的でしたね(笑)。出展企業によって、目的がまったく違ったんだと思います。 

※2:Information and Communication Technology(情報通信技術)の略。情報処理や通信技術の総称、あるいはそれらを活用したコミュニケーションなどを指す。

小林:この(下の)写真は農業用のユニフォームを売っている企業のブースなんですけど、ユニフォームは端っこに置いてあって、堂々と飲み物を提供していました。会社紹介の文字が、もはやバーカウンターの後ろに隠れていましたね。 

2023_0801_オランダ出張_10.png

――これは完全に、呑みたいだけのやつですね(笑)。 

小林:そうですね(笑)。でも来場者に飲み物を提供して、ラフに話すみたいなのは結構見かけました。ちなみに1日目の展示会が終わったあとには、来場者や出展者が参加できるパーティーもありました。ゴリゴリのクラブミュージックをかけて、MCがDJブースで「お前ら元気してるか~!」みたいなことを言いながら、大量に出てくるハイネケンを飲むという。日本ではまず、考えられないですよね。 

――展示会の最中も終わったあとも、コミュニケーションを重視してるんですね。 

岩田:そのパーティーは出展者は参加無料なので、良い文化だなと思いました。あと私はドイツのハノーファーの展示会にも行ったことがあるんですけど、やっぱり軽食とかお茶を出してくれて、商談しながら食事するみたいなところが何社かありましたね。こういう取り組みが、ヨーロッパの文化なのかなと思いました。 

まとめ

今回は前編と後編の2回にわたり、マクニカ社員3名のオランダ出張記をお届けしました。 

農業大国と言われるオランダでは、日本ではあまり見られない先進農作技術が活用されていることが分かりました。またその一方で、大量生産は野菜の価格を大きく下げてしまうという、大きな課題を抱えていることも明らかに。 

日本では台風などの影響で野菜が高騰することも少なくありませんが、今後オランダのように先進的な技術によって農業が効率化された場合、同様の状況に陥るかもしれません。高品質でおいしい野菜を作りつつ、その価値を守っていくことも、農業においては大切だと言えるでしょう。 

マクニカはオランダをはじめ、世界中のフード・アグリテック技術の粋を結集し、今後も食と農の未来を守るために尽力してまいります。

■記事前編はこちら
2023_0630_オランダ出張_00+.png


■マクニカは「フード・アグリテック事業」で、未来の食と農を支えます!
2023_0630_オランダ出張_15.png