タイで始める次世代エネルギー革命~SENA社との「ペロブスカイト太陽電池」実証事業始動~
2025年11月19日、マクニカはタイの大手不動産デベロッパーのSENA Development Public Company Limited(以下SENA社)と共同で、ペロブスカイト太陽電池(※1)の実証実験開始を発表するカンファレンスを開催しました。
本記事では、日本環境省の「二国間クレジット制度(JCM)」(※2)を活用したこの実証事業の全貌や実証現地の様子のレポートをお届けします。
※1:「軽い、薄い、曲がる」という特長を持つ次世代の太陽光電池。軽量で柔軟性があるため、建物の壁面や曲面などにも設置でき、太陽光発電の設置面積を大幅に拡大させることができると期待されている。
※2:途上国等に日本の優れた脱炭素技術の普及や対策実施を通じ、途上国の温室効果ガス排出削減と持続可能な開発に貢献し、その削減効果を両国で保有する仕組み。
なぜ今、タイで「ペロブスカイト」なのか
現在、タイの総発電量のうち約6割を占めているのが「天然ガス」です。かつてタイでは、タイ湾で採掘される豊富な国産天然ガスを武器に、安価で安定した電力供給を実現し、経済成長を遂げてきました。
しかし近年、タイの産業を支えてきた国産ガスの生産量が減少傾向にあります。足りない分を輸入した液化天然ガスで補うことにより、電気料金に影響を与えていると言われており、海外の燃料価格に左右されない、安定した国産エネルギーの需要が存在します。
この電力の供給問題の解決策の一つとして期待されているのが、タイに豊富に降り注ぐ日差しを利用した「太陽光発電」です。そこでさらにその可能性を広げる技術として注目されているのが、「ペロブスカイト太陽電池(以下PSC)」です。
PSCは、「軽い・薄い・曲がる」といった特性から、これまで太陽光パネルの設置が難しかった建物の壁面などへの設置を可能にし、太陽光発電の設置面積を大幅に拡大することが期待されています。
今回マクニカが、SENA社と共同で開始した実証事業は、単なるペロブスカイト太陽電池の実証ではありません。輸入燃料の割合を減らし、エネルギー自給率を向上させる、さらにはタイ政府が掲げる「2050年までのカーボンニュートラル」の実現。タイが掲げるこれらの課題に対し、技術でどう貢献できるかを示す挑戦といえます。
カンファレンス
ここから、カンファレンスの様子をご紹介します。カンファレンスの会場となったホテルの受付には、本実証実験の主役であるPSCが展示されていました。その横では、PSCで発電した電気で駆動する鉄道模型が軽快に走り、来場者の注目を集めていました。
▲PSCで発電した電気で駆動する鉄道模型の様子。こちらで集合写真を撮影しました。
(写真左から)マクニカ サーキュラーエコノミー事業部 脇坂正臣氏、マクニカ 執行役員 佐藤篤志氏、SENA社 Managing Director ケセラ・タニャラックパーク氏、駐タイ王国特命全権大使 大鷹正人氏、桐蔭横浜大学 特任教授 宮坂力氏
カンファレンスには日本とタイからキーマンが集結。日本語・タイ語の同時通訳を通じて、それぞれの想いを込めたプレゼンテーションが行われました。
▲PSCの発明者である桐蔭横浜大学 特任教授 宮坂 力氏の登壇です。宮坂特任教授からは、PSCがもつ独自の特性やその主原料に関する重要な優位性が語られました。主原料となる「ヨウ素」は、日本が世界第2位の生産量を誇る資源です。輸入に頼らず、国産原料で勝負できると強調されました。技術の生みの親が直接現地で語る姿に、会場のメディア関係者も熱心に耳を傾けていました。
▲パートナーであるSENA社 Managing Director ケセラ・タニャラックパーク氏は、タイにおけるソーラー住宅のパイオニアとしての視点からお話をされました。 SENA社の持つ不動産開発のノウハウとマクニカの技術が組み合わさることで、都市開発におけるエネルギー活用の新たな可能性が拓かれることへの期待が寄せられました。
▲マクニカ 執行役員 佐藤 篤志氏は、マクニカのこれまでの歩みを紹介しつつ、日本国内ですでに実施しているPSCの実証事業や知見について触れられました。その上で、今回のタイの実証実験における目的やその意義について触れながら、実証事業成功に向けた前向きな意気込みが語られました。
また、本実証事業が日本の環境省に採択されていることから、環境省の地球環境局長・関谷 毅史氏からのビデオメッセージが上映されたほか、駐タイ王国特命全権大使・大鷹 正人氏からもご挨拶をいただきました。日タイ両国の友好、そして脱炭素社会の実現に向けた協力関係の象徴として、本実証事業への強い期待と激励の言葉が贈られました。
▲フォトセッションの様子。PSCを手に持って撮影されました。
(写真左から)マクニカ サーキュラーエコノミー事業部 脇坂正臣氏、マクニカ 執行役員 佐藤篤志氏、桐蔭横浜大学 特任教授 宮坂力氏、駐タイ王国特命全権大使 大鷹正人氏、SENA社 Managing Director ケセラ・タニャラックパーク氏、SENA社 Board of Director and Senior Vice President ウマポーン・タニャラックパーク氏
いざ現場へ!亜熱帯環境下の実証実験
カンファレンス後、私たちは実際にPSCが設置された実証実験住宅の視察を行いました。到着したのは、パートナーであるSENA社が開発を手掛けた住宅街の一角。当日の気温は約30℃で、肌を刺すような強い日差しが降り注ぎます。
▲PSCが貼られた住宅。空からは強い日差しが降りかかっています。
今回、この場所で行われる実証実験には、タイでの本格普及を見据えた3つの重要な目的があります。
1. 高温多湿環境への適応:タイは年間を通じて高温多湿です。PSCにとって過酷な環境条件下でも安定して使えるよう、PSCモジュールの適正を確認し、最適な仕様への改定を目指します。
2. 大気汚染(PM2.5)対策の検証:タイ、特に都市部ではPM2.5などの大気汚染が深刻な問題となっています。こうした粉塵の蓄積が発電にどう影響するかを検証し、最適な保守管理方法の確立や、汚れに強い製品への改良を進めます。
3. 運用体制の確立:今後タイ国内でPSCを普及させるために、導入から保守までを包括するシステム構築運用体制を、SENA社と共に作り上げていきます。
それでは、実証の様子を詳しく見ていきましょう。今回の実証では、「薄く、軽く、壁面への設置も可能」というPSCの特性を活かし、PSCを東西南北の壁面と屋根、それぞれの場所に設置しています。
▲北向きの壁面に貼られたPSC。
▲東向きの壁面に貼られたPSC。
▲西向きの壁面に貼られたPSC。
▲南向きの壁面に貼られたPSC。
▲屋根に貼られたPSC。
太陽の位置や角度が変わる中で、どの方角、どの角度、どういった設置工法であれば太陽光発電として十分に機能、普及するのか。屋根だけでなく壁面も含めた多角的なデータ取得が行われています。また、住宅内には実験の心臓部とも言える制御室も設置されていました。
▲各パネルからの配線が集約された電気系統の機材が並んでいました。ここで発電量やパネルの状態などのデータがリアルタイムに集められ、詳細なモニタリングが行われます。
おわりに
今回は、タイで実施されたPSCの実証開始を告げるカンファレンスの様子や、実証の目的・現地の模様をお届けしました。
マクニカは、タイの亜熱帯気候条件下で実証事業を行うことで、タイを起点にアジアから世界への普及促進を目指します。将来的には、PSCを用いた自家発電・自家消費モデルを広く普及させ、再生可能エネルギーによるエネルギー自給率を向上させることで、世界の脱炭素化に向けて貢献してまいります。
