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青森慈恵会×マクニカが本州最北端から発信する地方創生DX2024

青森慈恵会×マクニカが本州最北端から発信する地方創生DX2024

本州最北端の青森に拠点を置き、医療・介護・観光分野で利用者に思いやりの心をもった高品質なサービスを提供している、社団法人慈恵会。地方都市が労働力不足・超高齢化社会の課題や多様なニーズへの対応を迫られるなか、慈恵会はDXを重要な戦略として位置付け、総力をあげて取り組み、学び続けています。本記事では、より良い地域包括ケアの実現や地方創生に挑む慈恵会の、DXに関する具体的な取り組みをご紹介します。

【講演者】

丹野 智宙 氏
一般社団法人慈恵会 理事長

小野 恒平 氏
一般社団法人慈恵会 ユニット型介護老人保護施設 青照苑
事務室長兼任 支援相談室長

金澤 真佐美 氏
一般社団法人慈恵会 ユニット型介護老人保護施設 青照苑
介護総括課長

八代 秀一郎
株式会社マクニカ

【目次】

ReLaboにおける慈恵会とマクニカの共創

八代:慈恵会様とマクニカは、2022年にDXパートナー協定を結ばせていただきました。現在、累積プロジェクトの数が40、導入ソリューションの数が10を超え、グループのなかで横断的に使われているソリューションも3つあるという、一大プロジェクトを推進させていただいております。そんな取り組みのなかで、慈恵会様が2024年夏から取り組まれているプロジェクトが「ReLabo」です。

丹野:現在、青森市の人口は約27万人ですが、25年後には17万人まで減ってしまうと予測されています。そうしたなか、慈恵会はJR東日本グループから委託を受け青森駅直結のホテルを運営するのですが、人口減少のなかで地方創生を意識しながら、地方を豊かにしていく施設でなければなりません。そこには、世界的なトレンドのウェルネスという概念があります。旅先で健康や自分を取り戻すという活動を通じて人口減少を緩やかにして、医療や介護を持続していければと考えています。

八代:昨年のMET2023においても「匂い」というテーマでお話を伺いましたが、このテーマが実はReLaboの着想にもつながっているということでした。

丹野:旅先で空気がきれいで澄み切っている場所に行くと、心を洗われる感じがします。青森駅の駅ビルにあるホテルで、どうやって空気質を担保するのかをマクニカさんに相談したら、「カルモア」という脱臭機とフレグランスを紹介されました。空気が綺麗になりよい香りがすることで、お客さまはホテルに入った瞬間に視覚と嗅覚を刺激されます。これを、医療事業などにも活用できないかと考えるようになりました。

八代:ReLaboは、健康とウェルビーイングのための性能評価システムである、WELL認証の取得も目指しているんですね。

丹野:空気質をきれいにするだけでなく、そこで働く人々の労働環境や旅人が触れる全てをウェルネスにしていくと、建物やホテルにWELL認証がいただけます。そこで、スタッフ一丸となって家具や水質、空気質、さらにはマクニカさんのエネルギー管理システム「Kisense」といったテクノロジーを活用して、環境に優しいことを証明しました。さらに、職員のメンタルヘルスやヨガなどを組み合わせることで、WELL認証の最高ランク「プラチナ」の取得を目指しています。


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慈恵会とマクニカの共創成果(成功体験が生んだ自走によるDX

八代:MET2023では、大きく2つのプロジェクトの成果をお話していただきました。1つは、製造業で使われるデジタルツインの技術を活用し、介護施設の残業時間の8割削減に成功して、その成果を病院にも横展開していった「デジタルツイン×入浴介助業務」。もう1つは、長年の現場の課題である匂いを改善する取り組みで、8割の職員が改善を実感し、鼻だけでなくて目でも効果を共有させていただいた「脱臭機×職場環境改善」です。このうち、デジタルツイン×入浴介助業務には続きがあります。

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金澤:デジタルツインの活用で残業は減らせたのですが、なかなかゼロにはなりません。その理由は勤務体制に問題があったことに気づいたので、そこに着目しました。

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デジタルツインを活用することで、週2回だった入浴業務を4回に増やしました。また、17名必要だった入浴業務職員の人数を、14名に減らすことにも成功しました。ところが、それらによって職員1人当たりの業務負担が増え、必要な人数を確保できない日があるという問題が起き、それを調整するために自動勤務表の作成に取り掛りました。

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今まで紙ベースで作っていた勤務表をデータ化したのですが、週2回から4回に増えた入浴業務を自動で入浴担当表に入力できるようにして、データ入力の負担を軽減しました。また、事前に人数を調整することで残業時間は25時間から8.2時間までに減少し、2時間かかっていた入浴担当表の入力も5分に収まり、勤務表のデータ入力作業自体がなくなりました。これによって、合計で月25.7時間の効率化を実現しています。

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業務改善の必要性に直面した当初は抵抗や不安がありましたが、チームで課題に向き合うことで小さな一歩から少しずつ成果が見え始め、それをきっかけに改善に挑戦することで新たな課題に向き合って改善するという文化が形成されつつあります。

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小野:私が青照苑の変化について感じているのは、マクニカさんと出会って伴走支援サービスを受けるようになってから、実際に改善行動を実行に移す心理的なハードルを超えやすくなったことです。また、今まで温めていたアイデアを表に出す機会になったり、会社に上程する根拠も示しやすくなったこともメリットと感じています。

八代:慈恵会様のように、自主的にデジタルの改善文化を回せる組織の事例は、どのような業界でも参考になると思います。

丹野:よく、「DXはトップ次第」って言われますが、現場では金澤課長や小野室長のような課長級の人たちが、人ごとではなく自分ごとのDXにしています。このように、課長や室長が使えるようにしているマクニカさんの伴走がいいなと思っています。辛い時には一緒に愚痴り合い、成功すると一緒に喜ぶ。そうやって、成功体験や挑戦、課題を回しています。

慈恵会とマクニカの共創成果(おまとめ忍者)

八代:ここからは新しい取り組みとして、成果のあったプロジェクトを2つ紹介したいと思います。

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1つが「おまとめ忍者」という、記録業務の効率化にポイントを置いたソリューションです。パソコンやスマホを使って音声情報を文字に起こし、議事録やポイントをまとめてくれます。以前は慈恵会様でも、議事録やメモの作成、共有に結構時間を使っていらっしゃったんですね。

金澤:そうですね、月7回くらい会議があり、その都度、議事録を作成していました。毎日行っている10分から15分くらいの連携ミーティングでも手書きでメモを残していたので、どうにか効率化できないものかと考えていました。

八代:まだ1年も使われていませんが、このまま使い続ければ、年間で245時間の記録業務が削減できると試算しています。成果だけ見れば、簡単にできたように思われがちですが、実際にはいろいろと苦労があったんですね。

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小野:介護用語の読み込みがなかなかできなかったり、音声を拾う作業に苦労がありました。連携ミーティングでは、参加者が発言するタイミングが流動的で時間がかかることもあったのですが、以前よりもミーティングを進行する手順が明確になり、進行担当者のファシリテーションスキルの向上にもつながったと感じています。

丹野:一般的に、株主総会や取締役会の議事録は残しておく義務がありますが、課長会議のような非公式な会議の議事録は任意です。ですが、医療や介護に関わる法人は、診療記録や介護記録、看護記録のように多くのことを記録しなければなりません。いずれはおまとめ忍者と生成AIを組み合わせ、音声の文字起こし原稿を要約して法律と照らし合わせてくれるようなバージョンアップにも期待しています。

慈恵会とマクニカの共創成果(Kisense

八代:もう1つの成果は、さまざまなエネルギー情報を可視化できるエネルギー管理システム「Kisense」です。

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実は、Kisenseは昨年のセッションが導入直後だったので、その際に理事長からいただいた「これは必ずクイックインが起きる」という言葉がいいプレッシャーになって、この1年取り組んできました。

小野:Kisenseの大きな成果は、施設の床暖房にかかる重油と電気のコストが可視化できたことです。

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以前から冬はずっと同じ運用ルールを適用していたのですが、詳しく調べてみると3階建ての2階は他のフロアより温度が上がりやすく、冬でも窓を開けて運用していることが分かってきました。そこで、運用方法を工夫すれば、1カ月に20万円から30万円程度のコスト削減が見込めることが分かってきたのです。また、夏場に使うエアコンも、利用者さんの快適性を損なわない範囲で運用ルールを見直すと、やはり1カ月に10万円以上のコスト削減が見込めることが分かりました。

八代:床暖房は室内の温度に基づいて各フロアで自動でオンオフし、コスト削減が図られるような仕組みを実装していく予定です。ここまで1年間プロジェクトを組ませていただき、可視化や制御に取り組んできましたが、現時点での評価はいかがでしょうか。

小野:細かいところまで可視化できるようになるには少し時間がかかりますが、今はエネルギー需要が細かく把握できるようになり、職員一人ひとりのコストに関する意識も上がってきていると感じているので、これからも続けていきたいと思っています。

金澤:今までは、暑ければ当たり前のように窓を開けていたのですが、やはり職員全体がコストを意識することは大切だと思っています。

丹野:個人的には、床暖房は夜間でも暑いと感じています。睡眠科学的には、24度から26度くらいが寝やすいという研究があるので、夜間に床暖房を切ることが介護の質の向上にもつながるかもしれません。

八代:Kisenseは時間帯でも温度を設定できるので、夜は少し温度を下げるなど調整しながらベッドセンサーで眠りの状態を可視化すれば、また面白い発見がありそうだと思いました。

今後の取り組み(マクニカ・慈恵会・コープさっぽろ 包括連携協定)

八代:ここからは、2024年に締結させていただいた、マクニカと慈恵会様、コープさっぽろ様の三者協定について触れたいと思います。理事長も協定の締結後、お互いの視察を定期的に行っていらっしゃるんですね。

丹野:先方からたくさん来ていただいて、私どもも2回ほど行かせていただきました。コープさっぽろさんは確実にDXのリーディングカンパニーだと思っているので、DXそのものを学習したい思いもあります。例えば、コープさっぽろさんは北海道全土で自宅に食事を配りに行く、「配食」というサービスを展開しています。私どもも、青森市内で自宅に人を派遣して、介護や看護、リハビリ、医療を展開しているので、共通するDXテクノロジーを探したいと思っているんです。

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例えば、配食する方が利用者の安否確認もしてくださると、介護負担が減るかもしれません。また、配食サービスに医師や管理栄養士が考慮したメニューを組み合わせていけば、新しいテクノロジーのヒントがあるかもしれません。また、コープさっぽろさんと一緒に、水を通じたウェルネス事業ができないかと考えています。このように、コープさっぽろさんと慈恵会が持っているテクノロジーの類似点を組み合わせるとどういうシナジーが生まれるのかについては、マクニカさんが総合プロデューサーになってつなぎ合わせる技術に期待したいと思います。

慈恵会が考えるDX推進のポイント

八代:現在慈恵会様が取り組んでいる課題は、青森ですとか医療介護分野に限った話ではなく、日本全体が抱える課題じゃないかと思っています。ですので、このセッションを視聴されている方々に、より慈恵会様のお考えを発信できればと思っていますが、理事長がDXを推進される時に大切にされていることをお聞かせいただきますでしょうか。

丹野:なにより、課長主導が重要です。私は逆に、金澤課長や小野室長がなぜこんなに頑張っているのか聞いてみたいです。

金澤:1つは、やはり入居者さんと関わる時間を持ちたいということです。そのためには、まず少なくなってきた介護職員がどう業務を進めながら、入居者さんと関われるのかを考えました。皆さんが仕事しやすくなるための意見を元に改善したのですが、そこでは、苑全体が同じ方向を向いていくことが重要でした。そのきっかけを作ったのがマクニカさんであり、最初に導入したデジタルツインの成功という一歩がなければ、勤務体制のDXにもつながっていなかったと思います。

小野:私は、理事長やマクニカさんが改善のヒントを現場に与えてくれて、それを自由にやってみようと言われているように感じていました。そこから、マクニカさんと直接話をしているうちに金澤さんのような人材が現れ、現場の人が楽しんでいる姿を理事長や上の方に伝えられたことがいいループになったと思っています。

丹野:DXを成功させるには、まず金澤課長みたいな人がいないと継続しないでしょう。マクニカのDXは、こういう人を育てる伴走をしていると思います。

八代:私が大事にしているのは、成功体験を得ていただくことです。どうすれば成功体験が得られるかに絞って、頑張ってきました。

丹野:2025年のMETでは、どうやって課長級の職員にDXをやる気にさせ、継続的にDXをバージョンップできるようにするのかを発表したいですね。

八代:最後に、DXを始めたいけどなかなか始められない、効果が得られないと思っている視聴者の方に向けてコメントをいただけますか。

丹野:最初は、失敗しても経営に影響がでないくらいの、余力のあるDX体験から取り組んでいけばいいと感じています。テクノロジーは山ほどあるので、マクニカさんにお願いする際には、「私たちの予算はこのくらいですが、なにかありますか」とオーダーしてみると、挑戦しやすくと思います。

八代:MET2023の後、全国の法人様や企業様がぜひ慈恵会様に視察に行きたいということで、ご協力をいただきました。そういう機会を通して法人と法人をつなぎ、それぞれの共創活動のなかで作られたソリューションが交換できるエコシステムを作っていく活動ができればと思っています。今後も、慈恵会様や利用者様、そして青森が元気になるような成果を視聴者の皆さんに発信したいと思っていますので、引き続きよろしくお願いいたします。