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国家戦略特区 加賀市とマクニカによる、自治体スマートシティ実現への取り組み

国家戦略特区 加賀市とマクニカによる、自治体スマートシティ実現への取り組み

石川県加賀市では自治体スマートシティの実現を進めており、その1つの施策として、2024年4月に加賀温泉駅と山代温泉間で自動運転の実証実験をマクニカと実施しました。マクニカは、サステナブルな社会の実現に向け、Life & Society、Green & Earthといった事業テーマをもとに、自動運転バスに代表されるさまざまなソリューションを自治体に提供、実装を進めています。本記事では加賀市の自治体スマートシティの詳細をお伝えするとともに、自治体の課題に対してどのようにマクニカとともに解決を行っているのか具体的な事例を交えてご紹介します。

【講演者】

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【目次】

石川県加賀市における持続可能なまちづくりの取り組み

佐藤:石川県加賀市の取り組みについて、ご紹介いただけますか。    

山内:2014年に自治体の約半数が「消滅可能性都市」に指定され、加賀市もその1つでした。加賀市としては「このまま消えるつもりはない」と強い意志を持ち、デジタル技術を活用した新しい街づくりに挑戦しています。「消滅可能性都市の、逆転劇。起こしたくないか。」というキャッチフレーズで、2023年にポスターを制作し、大きな反響がありました。

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山内:加賀市は石川県南西部、福井県と隣接する地域に位置しています。加賀市内には加賀温泉郷(片山津、山代、山中温泉)があり、観光地としても知られています。九谷焼や山中漆器といった伝統工芸品、部品メーカーを中心とする産業も盛んです。さらに、蟹や地酒といった特産品が加賀市の魅力を支えています。2024年3月16日には北陸新幹線加賀温泉駅が開業し、加賀市全体が期待に満ちた雰囲気で盛り上がっている状況です。

一方で、最大の課題は人口減少です。現在の人口は約62,000人で、2040年-2050年には、ピーク時と比べて半減が予想されるなど、危機感を持った対策が求められています。

地方創生とスマートシティ加賀

山内:人口減少に歯止めをかけるために、加賀市では地域創生とデジタル化の取り組みを積み重ねてきています。国家戦略特区として、市内全域を開発のテストベッドに指定し、多様な実証事業を展開してきました。例えば、廃校を活用してドローンのテストフィールドを整備するほか、旧市民病院跡地をイノベーションセンターとして再生し、エンジニアの育成拠点として機能させています。また、IoTセンサーを活用して高級葡萄「ルビーロマン」の栽培プロセスを最適化し、商品化率が以前の50%程度から75%以上に向上した事例もありました。

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山内:加賀市ではマイナンバーカードの申請率が100%に達し、医療や行政分野だけでなく民間との連携による活用が進んでいます。顔認証を利用した受付システムの導入や、電子市民証の発行とマイナンバーカードの連携モデル事業が進行中です。

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そのような中、2024年元日に発生した能登半島の地震では、石川県全体で大きな被害があり、加賀市では約2,500人の二次避難者を支援しました。この取り組みに対し、全国から多大なご支援をいただき、改めて感謝申し上げます。

自治体との共創事例

佐藤:マクニカが自治体様に向けてどのような取り組みを行っているかを紹介させていただきます。スマートシティの主役は、市民や観光客であり、それを支える市職員や県職員の皆さまです。そこで、モビリティや見守りなどのさまざまなサービス基盤を提供しています。

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佐藤:マクニカは半導体やエレクトロニクスを扱う商社として、カメラ、LiDAR、IoTセンサーなどのさまざまな製品や部品を提供しています。これらの技術を活用し、物理空間で得られるデータをサイバー空間に上げ、標準化やAIによる可視化を通じてサービス基盤へ活用しています。地元企業との連携を重視し、技術やノウハウを移転することで、地域の活性化を目指しています。

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佐藤:現在21都道府県、8政令都市、60以上の市町村・自治体と連携協議を行っています。広島県呉市の駅前再開発における自動運転バスの運行や、呉工業高等専門学校の学生を対象にした未来技術に関するディスカッションの場を設けるなど、産業支援や教育分野でも協業しています。また、「データプラットフォームくれ」を通じて、大和ミュージアムにおける入場データの可視化・分析のような、データ基盤を活用した多様な取り組みを進めています。

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佐藤:北海道当別町では、レベル3および4の自動運転車両を使った実証実験を行い、約3,500名が乗車しました。また、道の駅「当別」を拠点に「当別デジタルパーク」を展開し、年間75万~80万人が訪れる施設を活用した多様な実証実験を実施しています。
宮崎県ではアグリスト社との協力により、次世代農業パッケージを開発しました。このスタートアップ企業はピーマンの自動収穫ロボットを開発しており、宮崎県農政部と連携した取り組みを進めています。このプロジェクトは昨年のG7農業大臣会合でも宮崎県知事から強くアピールされ、国際的にも注目される成果を挙げました。

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佐藤:石川県では、ISA(石川県情報システム工業会)という組織を通じて、ビジネスプラットフォーム事業の立ち上げを支援しております。県内企業のDX推進に取り組んでおり、石川県工業試験場や各種大学と連携し、石川県の技術を日本一・世界一へと押し上げる活動を行っています。「e-messe kanazawa」という北陸最大の展示会では、2023年は自動運転バスを、今年はDXソリューションを中心に展示しました。

また、石川県の企業とともに、自治体のペーパーレス化を目指した「デジタル化ソリューション」を開発しています。これは、マクニカのテクノロジーと石川県の企業の強みを活かして作られたもので、現在は石川県かほく市でPoCが進行中です。

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佐藤:2023年度の自動運転関連の活動実績としては、茨城県境町や常陸太田市、羽田イノベーションシティでの社会実装があり、さらに石川県加賀市でも北陸新幹線開業に合わせた実証実験を実施しました。

定常運行は6件以上進行中で、今年度の実証実験は50件を超える勢いです。「RoAD to the L4」を目指し、順調に取り組みを進めています。

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佐藤:加賀市での自動運転EVバスの実証実験については、2024年4月17日から23日までの間にJR加賀温泉駅、イオン加賀の里店、山代温泉総湯を結ぶ約10kmのコースで実施しました。現時点で、この実験は世界最長の走行距離を誇ります。

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佐藤:マクニカの役割は、最先端のテクノロジーと地域の技術・サービスを有機的に結びつけ、自治体の皆様とともにサステナブルな社会の実現を目指して歩んでいくことです。

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加賀市Web3都市構想/e-加賀市民制度の事例

佐藤:どの企業もDXの重要性を語りますが、特にトップが明確な方針と強い志を持ち、施策を積極的に進めている企業では話がスムーズに進む傾向があります。自治体についても同様で、首長のリーダーシップが極めて重要だと感じています。

山内:おっしゃる通りだと思います。私はこの加賀市のCDO(最高デジタル責任者)に就任するにあたって、まず宮元市長との対話を重視しました。その中で、市長の考えや加賀市の可能性に強く惹かれました。

佐藤:実証実験から市民サービスへの展開活動について、具体的な事例をご紹介いただけますか。

山内:マイナンバーカードの利活用に関するものとして「e-加賀市民証」という電子住民証を紹介します。Web3技術を活用し、災害時や地域活性化のために導入された事例です。法的な住民票や市民票とは異なり、デジタル上で独自に作成・配布するもので、被災者が地域で買い物をする際に割引サービスを受けられるなどのメリットがあります。

また、支援者向けにも電子市民証を発行し、市外からのボランティアや地方創生に取り組むソーシャルスタートアップの方々が加賀市に訪れるきっかけをつくっています。

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山内:加賀市ではWeb3課を設置し、バーチャル上のメタバース空間で職員を配置して電子市民証に関する相談を受け付けています。この仕組みにより、市民同士のコミュニティ形成や地方創生を推進するための実証実験も進めています。
また、「加賀百万人創出プロジェクト」という大きな目標を掲げ、デジタル技術を活用して関係人口を増やしていく取り組みも進めています。

現在、地方には多くのリアルアセットが存在します。それらをデータ化・デジタル化することは、Web3の醍醐味の1つでもあり、大きな可能性を秘めています。ぜひ皆様にも「e-加賀市民」になっていただきたいと願っております。

さらに、デジタル田園健康特区という枠組みで、「医療版情報銀行」と呼ばれる取り組みを進めています。これは、市民のデータを二次流通させ、いかに有効活用していくかを目指すものです。

ここでは、持続可能な運営体制の確立が課題となっています。まず、データにとどまらず、介護データや行政が保有する各種データを横断的に連携し、市民サービスの質を向上させる必要があります

加えて、扱うデータ量が膨大になるため、プラットフォーム自体の共通化や標準化を進め、コスト効率を高めることが重要です。そして、この取り組みは1社だけで完結させるのが難しいので、複数の企業が連携して協力するエコシステムを構築する必要があります。

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佐藤:今後の加賀市様での取り組みについて伺えますか。

山内:加賀温泉駅周辺を皮切りにスマートシティの開発を加速させる計画があります。直近では、加賀温泉駅すぐそばに全天候型施設「ガレリア」の建設を進めています。また、加賀市の中心的なエリアとなる未来型商業エリアに商業施設を誘致し、市民の買い物環境を整えて、暮らしの質を向上させることを目指しています。
加賀市では、DXからGX(グリーントランスフォーメーション)へと取り組みを進化させており、安倍政権時代に「SDGs未来都市」に選定されたこともあります。例えば、加賀市を先行モデルとして、デジタルツインを活用した太陽光発電量のシミュレーションを実施しました。

また、地域が分散型構造になっている加賀市において、特に高齢化が進む中で、ゴミ出しが困難になっているという課題があります。この課題解決に向け、自動運転と組み合わせることで市民生活をより快適にする取り組みを進めていきたいと考えています。

サーキュラーエコノミーの取り組み

佐藤:マクニカはカーボンニュートラルやGXに向けた取り組みとして「サーキュラーエコノミーソリューション」という分野に力を入れています。事業領域としては、エネルギー、環境ライフ、省エネ、そして資源循環があります。町全体のエネルギーや資源を効率的に管理する仕組みを構築します。

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佐藤:ペロブスカイト太陽電池や蓄電池に代表されるような、エネルギーを「つくる」「ためる」技術を活用し、省エネテクノロジーを組み合わせながら、ゴミの資源循環により「つかう」「へらす」を実現することで、エネルギーを無駄なくマネジメントする仕組みを目指しています。

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佐藤:最近では「ペロブスカイト太陽電池」に強い期待が寄せられています。この技術は2023年6月、東京都庁内で行われた「空気質モニタリングソリューション」の実証実験において初めて自治体に導入されました。

この技術の特長である「曲がる太陽電池」の利点を活かし、横浜の大桟橋の屋上デッキ全面にペロブスカイト太陽電池を設置し、塩害や耐久性を検証する取り組みが進行中です。このプロジェクトは環境省の「地域共創・セクター横断型カーボンニュートラル技術開発・実証事業」に採択されました。

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佐藤:現在、注目されている省エネ技術が「マクニカット」という遮熱断熱塗料です。例えば、エアコンの室外機に塗布すると、室外機の温度上昇を15度以上抑えられるので、運転効率が向上し、年間の電力消費量を約10~15%削減できます。半導体を取り扱う製造業の工場などで実証実験が進行中です。

また、「メルトキング」という装置を用いて、ゴミを乾燥させて減量する技術を活用する取り組みを進めています。廃棄物を燃やさず安全に再資源化するもので、ゴミを約5分の1から10分の1に削減できます。例えば、デパートや病院などで使用すれば、ゴミの量を減らし、ゴミ収集車による収集頻度を減らすことが可能です。これにより、二酸化炭素(CO2)排出量や燃料消費の削減が実現します。

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佐藤:「廃プラケミカルリサイクル資源循環」というプロジェクトは、プラスチックを再利用する仕組みで、廃棄物を科学的な方法で再資源化する技術です。加賀市様との連携で現在検討しているのが、温泉施設から出るプラスチックごみの活用です。温泉施設で出る歯ブラシや、その他のプラスチックごみを地域で収集し、この「廃プラケミカルリサイクル」の装置を使って重油に変換する仕組みを構築することが可能です。この重油を温泉の加熱燃料として再利用するアイデアは非常に興味深いと考えています。

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佐藤:加賀市様とマクニカで強固な共創関係を築き、逆転劇を実現したいと思います。今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。