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小学生が「次世代の太陽電池」を見て・さわって・体感! 夏の自由研究ワークショップレポ

小学生が「次世代の太陽電池」を見て・さわって・体感! 夏の自由研究ワークショップレポ

 2024817日と18日の2日間、神奈川県西部の大井町にある自然豊かな施設「未病バレービオトピア」にて、「2024サマーチャレンジinビオトピア」が開催されました。同イベントでは、子どもから大人まで楽しめる30以上のプログラムがさまざまな企業・団体によって実施され、炎天下にも関わらず大勢の来場者によってにぎわいを見せていました。

 そしてマクニカは、神奈川県環境農政局脱炭素戦略本部室とペクセル・テクノロジーズ株式会社の協力のもと、同イベントにて"かながわ発の次世代技術"である「ペロブスカイト太陽電池」の展示・体験ブースを出展しました。

 ペロブスカイト太陽電池は、世界が一丸となって取り組んでいる脱炭素社会の実現に向けて大きな期待が寄せられている技術のひとつで、薄い・軽い・曲がるといった従来の太陽電池の常識をくつがえす特徴や、製造工程の特性(主にフィルムへの塗布)によるコストダウンなど、さまざまなメリットを持ち合わせています。今回の出展の狙いは、そんなペロブスカイト太陽電池を子どもたちとその保護者に体験してもらうことで認知度を高め、脱炭素社会の機運醸成を図ることにありました。

 本記事では、当日の展示やワークショップの様子をお届けします。


※:本記事の写真は、いずれも関係者の同意を得て掲載しています。

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▲展示ブースを設置したビオトピアのオフィス棟外観。その大きさは、まさに圧巻の一言でした。

道ゆく子どもたちが思わず足を止めた展示

 会場でまず目にとまったのは、ペロブスカイト太陽電池の詳細や、地球温暖化の状況などを示すパネルでした。写真でその一部をご紹介します。

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 また、実物のペロブスカイト太陽電池に照明を当て、プラグで繋いだ電子オルゴールから音を鳴らしたり、電車の模型を走らせたりする展示もありました。これらは子どもたちに大人気で、道すがら足を止めて釘付けになっている場面が多く見られました。

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▲画像中央あたりにあるのが、ペロブスカイト太陽電池。こんなに薄くて小さくても、ちゃんと発電できるんです!

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▲マクニカのビルを模した展示も。屋上に設置されたペロブスカイト太陽電池に照明を当てて、プロペラを回していました。

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▲ビルの下側には線路が敷かれており、電車が走行。男の子たちが夢中でした(笑)。

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▲電車の走行スピードは、壁際にあるペロブスカイト太陽電池と照明の距離が近いと速くなり、遠くなると遅くなりました。面白い仕組みですね。

桐蔭横浜大学 池上教授の講演

 ワークショップのプログラムでは、桐蔭横浜大学で光化学、光電気化学を専門分野とする池上 和志(いけがみ まさし)教授が、子どもたちへの講演や、ペロブスカイト太陽電池の制作実習のレクチャーを行いました。その一部を要約してご紹介します。

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池上:ペロブスカイト太陽電池は、いますごく注目されています。いままでの太陽電池は屋根の上にある、パネルのようなものが多かったですよね。ところが、ペロブスカイト太陽はプラスチックのフィルムを使って作れて、軽く曲がりやすいので、洋服やカバンに着けるといった新しい使い方もできるんです。さらに曇りや雨の日など、太陽が出ていないときでも発電できるので、これまでより発電量を増やせることも特徴のひとつです。毎年9月~10月ごろにはノーベル賞の受賞候補として名前が挙がっているので、今日はぜひ名前を覚えて帰ってください(笑)。

皆さんも知っているように、発電所では毎日電気が作られています。たとえば東京電力や九州電力の電気に関するグラフを見てみると、1日に使う電気のうち、一定量は太陽電池でまかなわれていることが分かります。この太陽電池の発電量をペロブスカイト太陽電池で増やすことができれば、地球温暖化の原因にもなっている、化石燃料を使った発電量を減らせるんです。

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ちなみに、人工的に生み出した光で発電するための研究もされていないわけではありません。しかし、やはり基本的には太陽・風・水といった、自然のエネルギーを使った研究のほうが現実的だと言われています。また、太陽電池を作るのにはお金や材料がかかります。そのため、私たちの研究室では太陽電池の生産コストをいかに安くするかや、自分たちの手でたくさんの太陽電池を作り出すための研究も進めています。

かわいい紙芝居で楽しくお勉強

 池上教授の講演が一段落したところで、いちど選手交代です。今度はマクニカでサーキュラーエコノミービジネス部の部長を務める、脇坂 正臣(わきさか まさおみ)が、手作りの紙芝居でエネルギーに関わるお話をしました。

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脇坂:みんなのおうちではスイッチを押して明かりをつけたり、お母さんが料理をするときに電気を使っていると思いますが、今日はその電気がなにで作られているかをお話します。

電気は電線から流れてきていて、その先には発電所という、電気を作っている工場があります。日本の発電所は火力発電といわれる、石炭を燃やして電気を作る施設がほとんどです。石炭をたくさん燃やすと、二酸化炭素というガスがたくさん出てきます。二酸化炭素は熱を溜め込む性質があって、その影響で地球がだんだん暖かくなってきています。これが地球温暖化と言われるものでたとえば南極でシロクマさんやペンギンさんが住むところがなくなったり、水を飲めなくなったり、環境に悪いことが起こります。そこでいま、世界中で二酸化炭素の排出量を少なくしようという努力をしているんですね。

二酸化炭素を出さずに電気を作るためには、自然のエネルギーを利用する方法があります。そうして作ったものは、再生可能エネルギーといいます。皆さんに作ってもらうペロブスカイト太陽電池は薄くて曲がって、すごく軽いので、たくさんの使い方ができます。

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ペロブスカイト太陽電池は、このシートに光を当てて発電します。これをうまく使えば、服や帽子を使った発電も可能です。しかも、電池があればその中に電気を溜められるので、昼に充電して夜に使ったりもできます。今日はペロブスカイト太陽電池の名前を覚えてもらって、夏休みの工作や勉強をしたことを、学校の先生や友達にも話してもらえたらなと思います。

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ペロブスカイト太陽電池をつくろう!

 エネルギーの仕組みになどをお勉強したところで、いよいよメインのペロブスカイト太陽電池の制作実習です! みんな、早くやってみたいと待ちきれない様子でした(笑)。

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▲テーブルの上に置かれていた箱を空けると、中には実験キットが。これで太陽電池を作れるって、すごいと思いませんか?

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▲実際の手順。

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▲親子で協力しながら制作を進めている様子。

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▲ベースとなる導電性プラスチックフィルムをセロハンテープで台紙に固定し、酸化チタンペーストを塗ったり......。

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▲増感色素という液体を吸着させたり......。

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▲ステンレス板をえんぴつで一生懸命こすったりしながら、作業が進んでいきました。

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▲最終形はこんな感じ。クリップで挟まれているのが太陽電池で、一番右にある白い電子オルゴールとつながっています。

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▲外で太陽の光を当てて......オルゴールの音が鳴れば、実験は大成功です!

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▲電圧計につないで、発電量を計る実験も。

登壇者インタビュー

 講演を行った池上教授とマクニカの脇坂に、それぞれ簡潔なインタビューを行いました。

池上教授

――ワークショップをやってみていかがでしたか。

池上:実はこれまでは単独で講演することが多かったのですが、今回は神奈川県やペクセル・テクノロジーズさん、マクニカさんとご一緒させていただき、違った雰囲気を味わえてとても楽しかったです。小学校低学年のかたにも多くご参加いただきましたが、色々質問をしてくれたり、工作も楽しそうにやってくれたりと反応がよくて嬉しいですね(笑)。

――こうした試みはほぼ初とのことですが、今後のご自身の活動も含めた心境はいかがですか?

池上:太陽電池自体は皆さんご存知ですが、今回ご紹介したペロブスカイト太陽電池は、ほとんどの小学生が知らないと思います。ただ、あと数年で有名になる可能性もあるので、しっかりと皆さんに知っておいてもらえればという気持ちです。なかには「学校で友達に自慢していいですか」と言ってくれた子もいたように、子どもたちがこうしたワークショップなどを通じて、「いいことを聞いたぞ!」と思ってくれるような講義を今後も続けていければと思います。

マクニカ 脇坂

――ワークショップの感触はいかがですか?

脇坂:2日目は雨の時間もありましたが、初日は常時満席で全体としては大成功でした。紙芝居や工作も子どもたちには非常に興味深かったようですし、保護者のかたがたも真剣に見てくれていました。

今後、子どもたちにはよりよい地球環境が必要となりますが、彼らはその環境を作る時間を多く持っています。そのため、地球温暖化のことを勉強してもらい、「自分達の身近にある家の電気ってスイッチを押せばつくけどその電気はどこからきているの?」「どうやって作られているの?」を知ってもらおうと考えました。

また、「身近な動物たちの住む場所がなくなっている」といったCO2による弊害の例を挙げることで、再生可能エネルギーを大事にすることで将来の地球がよりよい環境になることをぜひ学んで欲しかったのです。ワークショップを実施する場所の候補はビオトピア以外にもあったのですが、今回は多くの可能性をもっているペロブスカイト太陽電池のことを紙芝居や工作を通じて知ってほしいという狙いがあり、親子が訪れやすいところを選びました。

――ペロブスカイト太陽電池の活用のポイントはどこなのでしょう。

脇坂:いままで太陽電池を置けずに発電量がゼロだった狭い場所や日陰など、さまざまな場所での発電が可能になることですね。というのも、太陽電池の発電量にはどうしても限りがあって、たとえば小さなコンビニエンスストアの屋上にシリコン型(一般的に知られるパネルのような型)の太陽電池を設置しても、その店で1日に使う電気をそれだけでまかなうことは困難です。しかし、ペロブスカイト太陽電池を使えば、全体の3割だった発電量を45割などにできるかもしれないわけです。

――従来の太陽電池とペロブスカイト太陽電池は「競合」するものではなく、「共存」するものなんですね。

脇坂:そうですね。ペロブスカイト太陽電池は夜でも照明の光で発電できるので、夜間に電気を必要とする場所でも活躍します。今回のワークショップでは大きく取り上げていませんが、蓄電池があれば、電気を溜めるのも使うのもより効率的になります。

まとめ

 今回は、ビオトピアで実施したワークショップの様子をお届けしました。「見たことも聞いたこともない太陽電池を自分の手で作る」ことは、子どもたちにとって非常に貴重な体験になったのではないでしょうか。世界中で開発が進んでいるペロブスカイト太陽電池に、本記事を読んでくださった皆さまも、少しでも興味をもっていただけたのであれば幸いです。マクニカは今後もこうした活動を通じ、関係各所との連携を図りつつ、地球環境の改善に尽力してまいります。

■マクニカ サーキュラーエコノミー事業 Webサイト
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