深めようSDGsへの理解! 未来を担う高校生に伝えた、マクニカの取り組み【企業講座レポ】
2015年9月に国連でSDGs(持続可能な開発目標)が採択されてから、はや8年以上。世界が一丸となって取り組んでいるこの目標は、教育の場にも広がりを見せています。
神奈川県の横浜市立東高等学校(以下、東高校)は、ユネスコスクール加盟校としてESD(持続可能な開発のための教育)を推進している学校のひとつです。同校では「イーストタイム」という総合的な研究の時間を設け、ESDやSDGsに対する理解を深める場として、講演会・ワークショップ・生徒からの社会貢献活動報告などを行っています。
また、平成30年度からは同校の1年生と2年生を対象として、東高校とYMBL(横浜メディアビジネス総研)が「東高校 Premium Program(※1)」を共催。マクニカは2023年12月18日に実施された同プログラムに、昨年に続いてお招きいただきました。本記事では、マクニカによる講演と質疑応答の内容をレポートとしてお届けします。
※1:社会貢献活動に取り組む企業や団体が集まり、それぞれの活動を生徒にプレゼンテーションする企画。生徒は基本的に、自分の希望した講座を2つ受けられる。2023年度は新たにNPO法人横浜コミュニティデザイン・ラボが推進母体となり、今後の継続実施も決定。
※2:本記事の写真は、東高校およびYMBLから掲載許可を得て使用しています。
目次
マクニカってどんな会社?
本日はよろしくお願いいたします。半導体やエレクトロニクスは難しい分野ですが、今回は私たちの事業や取り組みなどを、分かりやすく説明をしていきたいと思います。
▲講座の雰囲気。生徒の皆さんは時折うなずきながら、最初から最後までとても真剣な表情で話を聴いていました。
まずは、実物の機器で事例をご紹介します。これは、上に乗せた液体の残量によって発光色が変わるコースターです。
▲ペットボトルが満タンだと、水色に発光。
▲残量が減ると、赤色に変化します。
実はこれは、とある場で「減っている飲み物の量が一目で分かればいいのに」と私が思ったことが、誕生のきっかけでした。このコースターの中には半導体という部品で作られた、電気で重さを計るセンサーなどが入っています。そして物が載ると抵抗値が変わるので、それをマイクロコントローラ(マイコン)で測定して、光り方を変えるという仕組みです。
マクニカは、こうした機器に使う半導体の取り扱い事業を1970年代から続けている会社です。半導体はアメリカのカリフォルニア州にあるシリコンバレーなどで入手し、世界中の電機メーカーなどに供給しています。各メーカーが半導体を使って電子機器などを作ることで、世の中をより良くするお手伝いをしているとも言えますね。
皆さんは、半導体を見たことがありますか? パソコンのマザーボードに載っているので、好きな人は知っているかもしれません。他にはテレビ・スマホ・車・ゲーム機などにも使われています。1990年頃からはインターネットの普及に合わせてネットワーク事業も始めました。最近ではウイルスやフィッシングの対策も行っています。
たとえば「銀行の暗証番号が盗まれたので、至急パスワードを入れ直してください!」と言われて慌てて対応したら、騙されて本当に個人情報を盗られることがあります。そうした被害を未然に防ぐためのソリューション(解決策)を私たちは提供しています。もしかすると、皆さんの周りで使われているセキュリティソフトも取り扱っているかもしれません。
そして2010年台に入ると、これまでに得た技術や知見を活用して、社会課題の解決を目指すようになりました。具体的には新規事業としてAI・モビリティ(車の自動運転など)・ロボット・農業など、さまざまな事業を手がけています。
分かりやすいところでは、車の自動運転が挙げられます。たとえば東京都の羽田イノベーションシティや茨城県の境町では、マクニカの自動運転バスが実際に走行しています。特に、後者は町の住民の移動手段として日本で初めて自動運転バスが定時運行され、境町の活性化に大きく貢献しました。
他にも、人と会話をしたり遠くの人とビデオ会議ができるコミュニケーションロボットなど、さまざまなものの提供を通じて、SDGsへの貢献を目指しています。
テクノロジー活用で立ち向かう、2024年問題
SDGsに関しては気候変動や温暖化、CO2排出などは皆さんもよく耳にすると思いますが、直近では2024年問題(※3)もあります。
※3:2024年4月1日から建設・物流・運送・医療などの業界における年間の時間外労働時間の上限が960時間までに規制されることで生じる、さまざまな問題の総称。
以前、大型トラックの運転手が長時間労働の疲れから居眠り運転をした結果、事故が起きたというニュースがありました。こうしたケースが社会問題になっているため、労働時間の削減が求められていますが、効率を追求しながら労働時間を減らせなければ、その会社はいずれ立ち行かなくなってしまいます。そこで私たちは、テクノロジーを使って2024年問題の解決に貢献する手段を考えました。
その1つが、センサー技術を応用した荷物サイズの瞬時計測により、ドライバーや物流拠点での労働時間を削減しようというものです。
荷物の集荷や受け入れ窓口で一つ一つの大きさを人がメジャーで測っていては、たいへん多くの時間がかかってしまいます。しかし、このセンサーを使えば一瞬で荷物の三辺を測ってくれるため、時間を大幅に減らせます。加えてOCRという機能で伝票の郵便番号やバーコードを読み取れば、瞬時に配送料や行き先が分かるため、従来は5分かかっていた作業を10秒で終わらせることも可能です。
計測の仕組みは、センサーが発射した赤外線が物にあたって反射して返ってくるまでの時間(タイムオブフライト)から対象物の立体図を描き、サイズを算出するというものです。センサーの設置場所次第では、物流倉庫のコンベアを流れる荷物のサイズ計測も自動化できるので、その確認に使っていた労働コストも削減できます。
さらにこの技術を応用すれば、空間の容積率の計測も可能です。用途としては、トラックの積載率確認などがあります。
トラックの積載率が分かれば、空きに余裕のあるトラックに追加の集荷を依頼するなど、全体の効率化を図れます。すると車の移動が少なくなり、ドライバーの労働時間・ガソリンの消費量・CO2の排出量が減ります。従来はトラックの積載量も経験者のカンなどで判定していましたが、データの見える化をすることで、最適な運用ができるようになるというわけです。現在はこうした技術を運送会社様に提案し、一緒に導入検討を進めています。
教育や住みよい街づくりへの貢献も
小学校では2020年度、中学校では2021年度からプログラミング教育が必修化されました。とはいえ、学校の先生のなかでプログラミングを教えられる人は、そうそう多くはいません。趣味や独学で取り組んでいる子もいるかもしれませんが、それも多くはないでしょう。
そこで私たちは、子どもたちが自身で楽しんで学習できる教材を作るべく、模型・学び・ロボットなどを手掛けるパートナー企業と、プログラミング教育のためのプロジェクトを共同で立ち上げました。「つみきプロジェクト」と言います。
同プロジェクトでは、難しいプログラミング言語を必要としないビジュアルプログラミングを使いました。たとえば、マウスのドラッグ&ドロップでパズルのように命令を組み合わせるだけで「手を上にしたら走る」「真ん中にしたら止まる」など、ミニ四駆のマシンに対する命令プログラムを簡単に描くこともできます。これを実際に体験した子どもたちは自分たちで色々試すようになり、コースやプログラムを作って大いに盛り上がっていました。
最後に、With / Afterコロナについてのお話です。この3年間で住みよい社会とは程遠い出来事の数々が世の中で起こりましたが、私たちは今後、それらと付き合っていかねばなりません。
現在はWithコロナ、Afterコロナと言われていますが、感染してしまうと、やはり健康に支障が出ます。長く住み続けられる街づくりのためにも色々な取り組みをしようということで、私たちはいくつかのソリューションを開発しました。
こちらは、タッチレス照明スイッチです。コロナ禍では学校やオフィスなどで誰かが触ったところの消毒がとても大変でしたが、電気などのスイッチを押さないわけにもいきません。そこで、物理的なボタンを無くし、静電気やレーザーを使い触らずにオン・オフの切り替えをできるようにしました。手を振ることで明るさの調節もできます。また、これは大掛かりな工事をすることなく、既存のボタンスイッチを取り外して簡単に入れ替えることもできます。
また、コミュニケーションロボットとセンサーの組み合わせで、ビル内の空気の質を見守るロボットに改造しました。これにより、温度・湿度・CO2・気圧・ガス・明るさ部屋のを無人で安全に計れます。たとえば、密になるとCO2濃度が高くなるので、一定の基準を超えたらロボットが「距離をとってください」という注意喚起を出すこともできます。また、においの強い空間では、定期的に自動消臭を行うこともできます。
ほかには、在庫や残量の計測を自動的に行い、通知してくれるというソリューションもあります。
あるスーパーマーケットでは、商品を補充する係の方が定期的に棚の在庫を確認するために巡回しています。コロナ禍でお客さんがほとんど来ないので、棚は常にほぼ満タンでなのですが、商品が減った際には補充をしなければならない。しかし、商品が減る機会は少ないので、巡回はほとんどムダ......という状況でした。
そこで、最初にデモを見せた光るコースターと同じ原理でスーパーマーケット向けのものを作りました。これで、特定の商品が少なくなった場合に係に通知が飛びます。結果、係の人が棚に足を運ぶ回数や、そのために割く人員を減らすことができます。現在はこれにAIを導入し、雨が降ったら傘を多めに設置するであったり、曜日による客足のバラつきを分析し、最適な商品補充の提案を行える仕組みを検討中です。
参加者からの質問
参加者からいただいた質問をまとめました。
Q:今回紹介されたようなものは、どうやって開発しているのですか?
マクニカ:私たちには最先端の半導体を扱ってきた経験があるので、多くの技術知見があり、あらゆるものを開発できます。またそれらの販売を通じてさまざまなパートナーとの関係もできており時に協力してもらっています。
Q:AIが人間の代わりになるくらいに進歩するとも言われていますが、どのように共存していけばよいと思いますか?
マクニカ:当面は、人間のすべきことがなくなるとは思いません。AIは機械的なルーティンワークは得意ですが、人間のもつ感情や倫理的な面はまだまだ苦手分野なので、そのあたりは棲み分けなのかなと考えています。現在は「ないものを生み出す」ことはまだできませんが、この先はどこかでブレーキを踏まないといけないときが来るかもしれません。
私たちが本当に幸せになっているかどうかは、よく考えないといけませんね。ちなみに「縄文時代の人と現代人はどちらが幸せか?」というとあまり差がないという話もあります。
Q:一番最初にご紹介いただいたコースターは、実用化されているのですか?
マクニカ:いいえ。これは作って売ろうというよりも、お客様と「こういった課題を解決できないか」などのコミュニケーションをとるきっかけとして使っています。たとえば、私は最初は飲み物を想定していましたが、製薬会社の方から「洗剤や薬の容量を調べるのに使えそうだ」と言われたこともあります。こうしたやり取りが、ビジネスにつながります。
Q:製品のネタを探す際は、社員同士で会議をしていますか?
マクニカ:そうですね。「こんなものがあったら便利だよね」というブレーンストーミングで、自分のアイデアを関係者に提案し、「それは良さそう」となれば、予算を使って叩きを作ります。すると、色々なお客様が「このままだと使えないが、こうなれば欲しい」と言ってくださることもあります。そしてその先ではお客様との協業であったり、製品化のための受注をしたり、別のつながりができたりします。こういったことがあるため、私たちはニワトリとタマゴで言うところの、タマゴを先に作っています。
まとめ
最後に、今回のプログラム参加者からのアンケート回答を一部ご紹介します。非常に多くの方が最先端テクノロジーの可能性に感心するとともに、さまざまな気づきを得てくださったようです。
■時代によって事業を変えていって変化し続けていてすごいと思った。早くバスとかの乗り物が自動運転になってほしい。
■住みやすい環境を作るために、小さなアイデアから発想を得て社会に役立つものを開発しているのだと知ることができました。
■私は、『会社と消費者を結ぶ会社』しか知らなかったけれど、当たり前ではあるが『会社と会社を結ぶ会社』があるということがとても心に残った。
■生活の中で不便に感じたことを解決するのが企業がある一つの理由と理解しました。意外とその解決策がSDGs解決につながるのだなぁと思いました。
■自分が感じた不便さや気付きを形にすることもあれば、他人からのアイデアを形にすることもある。違った視点を持つ人々との交流の重要性が分かった。
■センサーを使って人件費や労働時間の削減ができる発想がすごいと感じた。これからの時代、もっと効率化等を重視して、必要になってくると思うので興味深かった。
■半導体のことは名前だけしか知らなかったけど身近なものに使われていたり話し合いとかアイデアを出すことによって身の回りの不便なことをなくしていくことに感動しました。社会がこうやってまわってるんだなと思いました。
■最先端技術は生活の様々なこんなことあったらいいを実現できることを知り、とても興味を持ちました。特にバスなんかは、法律が変われば無人バスが実現できることを知り、人手不足解消にも繋がり、素晴らしいことだと思いました。
■開発をしようと思うきっかけが、生活する上での不便なところを効率化したり楽したりしたいと思うところからくるのだと解釈し、今社会で求められるニーズに社会人になった時に応えるためにも楽をするということを大事にしたいと思った。
■半導体やインターネットセキュリティなどで得たノウハウなどをもとにAIやロボットを活用して様々なことに挑戦していることがわかった。重量を認識して情報を伝達するシステムや機械は公共交通機関の混雑状況の把握に役に立つと思った。
マクニカはSDGsも含め、世の中をよくするためのさまざまな取り組みを行っています。コロナ禍や地球温暖化といったさまざまな変化は予測不可能なものですが、私たちは今後も最先端技術と知識をもって、未来を描きながら前へ、前へと進んでゆきます。