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官民一体でフレイル(虚弱)予防を! デジタルを活用して健康寿命延伸をサポート

官民一体でフレイル(虚弱)予防を! デジタルを活用して健康寿命延伸をサポート

周知の通り日本は超高齢化社会を迎えており、支援や介護を必要とする高齢者()が年々増加しています。一方、新型コロナウイルス感染症の影響で、高齢者が他者とコミュニケーションをとれる場所や機会は減少しました。結果、高齢者における「フレイル」のリスクが高まるとともに、その予防が求められています。

フレイルとは健康と要支援・要介護の中間で、身体的機能や認知機能の低下が見られる状態のことを指します。ただし人によっては適切な介入指導や予防を行えば、元の健常な状態に戻すことも可能です。

本記事では高齢化社会の現況を簡潔にまとめつつ、フレイル予防に関するマクニカの取り組みを、ヘルスケア事業部の事業部長である小池 泰治(こいけ たいじ)と、新事業本部ヘルスケア事業推進室 室長の西村 武郎(にしむら たけお)に訊きました。

※:本記事における高齢者は世界保健機関(WHO)の定義にならい、65歳以上とした。

目次

データで見る高齢化社会

最初に、日本における高齢化社会の現況をまとめました。なお、今回は主に内閣府の「令和5年版高齢社会白書」を使用しました。

高齢化社会の現状

冒頭で述べたように、日本では高齢者の数が増加の一途をたどっています。具体的には総人口12,495万人(令和4101日時点)のうち29%、つまりすでに総人口の約3割が高齢者で占められているのです。

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出典:「令和5年版高齢社会白書」(内閣府)(https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2023/zenbun/pdf/1s1s_01.pdf)(202388日に利用)

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出典:「令和5年版高齢社会白書」(内閣府)(https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2023/zenbun/pdf/1s1s_01.pdf)(2023年8月8日に利用)

▲高齢化(と人口)の推移を表したグラフ。グラフ下部の高齢者を示す水色とピンクは年を追うごとに増え続けています。さらに、高齢化率は今後も拡大しつづけることが予測されています。

要介護者の増加

高齢者の増加は、介護や支援を必要とする人が増えることをも意味します。

日本で介護保険制度における要介護または要支援の認定を受けた人(以下、要介護者)は、令和2年度で668.9万人でした。令和2年度の高齢者数はおよそ3,600万人なので、そのうちの約2割が要介護者にあたる計算です。

ちなみに、平成22年度(令和2年度から見て10年前)の要介護者数は490.7万人でした。令和2年度は、そこから178.1万人(約1.36倍)増加しています。

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出典:「令和5年版高齢社会白書」(内閣府)(https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2023/zenbun/pdf/1s2s_02-1.pdf)(202388日に利用)


フレイル予防の重要性

ここまでは、高齢者や要介護者の概況を見てきました。人々が健康な状態を維持し、現状の社会状況を解決し、いまからフレイル予防を拡大させることが急務となっています。

以降は、マクニカにおけるフレイル予防にへの取り組みについて、小池と西村へのインタビューをお届けします。

健康寿命延伸が課題

――日本が超高齢化社会を迎えていることについて、どのように捉えていますか?

西村:いまは科学技術が進歩しているので、人々の寿命が延びていることに関しては、私は自然なことだと思っています。

小池:その一方で、「健康寿命」という要介護の手前までの寿命も延びてきてはいますが、それでも約10年は介護を必要とした状態で生活しなければならず、生活の質が低下している現状があります。日本は世界と比べると、まだ健康寿命を伸ばせる余地があると考えています。

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出典:「健康寿命の令和元年値について」(厚生労働省)(https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000872952.pdf)(202388日に利用)

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出典:「健康寿命の令和元年値について」(厚生労働省)(https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000872952.pdf)(202388日に利用)

 ▲厚生労働省が公開している、「平均寿命と健康寿命の推移」。令和元年でこの2つの差を算出すると、男性は約8.7年、女性は約12.0年となります。つまりそれだけ長い期間、介護を必要としたり、寝たきりになったりするリスクがあるということです。

介護・医療とも等しく重要なフレイル予防

――マクニカはヘルスケア分野でどんな取り組みをしていますか?

小池:まず全体としては、大きく分けると健康・介護・医療領域への取り組みが挙げられ、デジタルやデータなどのテクノロジーを使いながら、個人に最適化されたプログラムの提供などを目指しています。領域によっては高齢者以外の方も対象になりますが、とりわけ高齢者の方を対象にしたものですと、フレイル予防を主目的とした「MAQUP(メークアップ)」というサービスが代表的ですね。

――ヘルスケア分野の取り組みは、いつ頃から始まったのですか?

西村:6年前には、慢性疾患のデジタル治療アプリを開発し始めていました。「人々の健康維持という大きな社会課題に対して、私たちマクニカが取り組んでいきましょう!」という機運は既に高まっていました。そして私たちは「予防病気」「アナログデジタル」という2軸座標を据えたとき、「予防×デジタル」のゾーンにおいてデジタルを活用することで社会貢献できるのではないかという仮説を立て、チャレンジを始めたのです。

――MAQUPや、フレイル予防の概要を教えてください。

小池:まずMAQUPの立ち上がりは、長年フレイルの研究をされてきた熊谷 秋三 九州大学名誉教授との出会いがきっかけです。熊谷氏の研究の特徴は、社会実装を想定した簡単に実施できるフレイルチェックの開発と、介入を通じたフレイルの改善まで成果をあげていることです。人対人で行うものというよりは、特定の地域で成果をあげた研究を、いかにしてより多くの地域に拡大し、高齢者に価値を届けていくかが課題でした。

そこで私たちはデジタルを活用し、日本全国に提供できないかと考えました。現状は国や自治体が主に取り組んでいますが、高齢者が増え続けていく中で、行政によるフレイル予防を継続的に拡大できる仕組みをサポート出来ないかと考えるようになりました。

西村:65歳を超えてきたシニアの方が最初に考えるべき課題が、フレイルになります。この言葉は2014年ごろから使われ始め、まだそこまで世間の認知度は高くないのですが、重要なのは「そのくらいの年齢のときに、意識してフレイル予防をしましょう」という「ゾーン」が設けられたことです。

そして、その「ゾーン」でしっかりとフレイルのコントロールをすれば、認知症の発症率が落ちたり、要介護状態になる可能性が下がるという基準が日本老年医学会によって設けられたので、私たちはそこをしっかり注視し、対策を講じようとしているのです。

――年代ごとに合わせた健康課題があるというのは、まさにその通りですね。

小池:そうですね。先ほど健康寿命の話をしましたが、高齢者が要介護状態になる主な原因に、「高齢による衰弱」や「骨折・転倒」が挙げられます。脳卒中や心疾患といった病気は避けられない部分もあるのですが、衰弱や転倒などは生活習慣を見直せば回避できます。こういったところは、医療とは別に私たちがアプローチできる点だと考えています。

2023_0901_helth09_06.png 出典:「令和4年版高齢社会白書」(内閣府)(https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2022/zenbun/pdf/1s2s_02.pdf)(202388日に利用)

 

――MAQUPの特長についてはいかがでしょうか。

小池:「健康になりたい高齢者」より、「不健康になりたくない高齢者」のニーズに応えられることだと思っています。MAQUPでは「不健康になりたくない高齢者」に対して、健康を意識する環境を作り、運動までセットでフレイル予防を提供しています。

たとえば、いまはフィットネスジムなど、個人で頑張って健康を目指す場所はすでにありますよね。一方で自治体もフレイル予防のために色々と取り組み始めていますが、非常に多くの行政サービスに取り組まれているなかで、限られた人に対してしかサービスを提供できておらず、一人ひとりに時間をかけられないというのが現状です。

しかしフレイル予防のように継続して取り組むものは、誰かに伴走してもらいたいという方が多いと思います。その点、MAQUPはフィットネスジムなどと提携しているので、利用者の「無理はしない、でも不健康にもならない」というニーズを伴走しながら満たすことができます。つまりこれまでになかった、ちょうどよいサービスという立ち位置ですね。

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MAQUPの詳細な仕組み。


西村:あとはデジタルを活用するので、今後さまざまな面で広げられるというメリットもあります。

小池:そうですね。MAQUPは完全にデジタルの活用を前提としているわけではないのですが、今後はスマホを使える高齢者の方も増えていくと思うので、より受け入れられやすくなるかなと。またデジタルを使うことで、サービスの幅が広がりますし、民間企業がフレイル予防を行うことで経済が循環し、持続性も増してくると考えています。

――実際に利用されている方の反応はどうですか?

小池:現状は遠隔での運動配信をメインで行っていますが、誰でも参加できるような運動負荷なので、お客様の満足度は高い印象です。一方で、もっと負荷の高い運動をしたいと物足りなさを感じている方もいらっしゃいますね。

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――そういった方へのケアも検討されていますか?

小池:はい。いまはプログラムを自治体の教室の中でも行っているのですが、そこではできるだけ多くの人をカバーしたいという観点から、提供内容が限定されているという側面もあります。そのため、お客様によっては今後、自治体で提供している教室を3ヶ月くらいで卒業し、フィットネスジムに移行していただきます。そして、その方のフレイルのレベルや体力に合わせた最適な内容を提供することなどを検討しています。

民間企業として、持続的な取り組みを

――MAQUPを通じて、マクニカがもっとも実現したいことはなんですか?

小池:自治体が取り組んでいるフレイル予防を、民間企業がお客様に対して持続的に提供できる仕組みをつくりたいです。また、さまざまなデータを取得することで、予防に対する新しい打ち手の発見などにつなげたいですね。

西村:やはり、まずは取り組みを継続させる必要があると考えています。1人でも多くの健康に対する価値観を変えることで、元気なシニアが増えると良いなと思います。

――高齢者の生活におけるモチベーションアップのためには、ほかにどんなことが重要だと思いますか?

小池:やりたいことを見つけて、QOLを上げてもらうことですね。健康はあくまでも、やりたいことを成し遂げるために必要な要素ですから。そういう意味で、私たちはお客様の健康への取り組みが、生活のなかに自然と溶け込んでいく仕組みをつくることが重要だと考えています。

西村:そうですね。お金では買えない健康という概念を私たちがデジタルで定量的に表すことで、お客様にこれまでにない価値を提供できるといいですね。

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――今後、マクニカとしてはどんな取り組みをしていきたいですか?

小池:まずは地に足をつけて、お客様の声をしっかり聞きたいですね。またMAQUPはフィットネスジムなどとの連携が不可欠なので、そちらのニーズも汲みとりつつ、サービスをより良くしていくつもりです。

また、いまは小さな成功をひとつずつ積み上げて、市場や地方自治体からの信頼を獲得することが大事だと考えています。フレイル予防において、将来的にはイノベーションを起こすためのチャレンジもしたいですが、技術から入るのではなく、その前の土台づくりから始めていきます。

西村:科学技術が進んだいまでは、半導体による人のバイタルセンシング、AIによる健康アドバイス、高度なセキュリティ技術による個人情報の保護などができます。私としては、待ちに待った世界がようやくきたなと思っています。

20年前は医者頼みだったところをデジタル技術でサポートができるようになったことは、技術の発展とともにマクニカが成長してきた証でもあると思います。ですので、このヘルスケア分野の取り組みを是が非でも成功させようという意識はものすごく強いですし、これからもそういうモチベーションでやっていきたいです。

まとめ

今回は日本における高齢化社会の概況から、その対策として考慮すべきフレイル予防についてご紹介しました。

高齢化社会が進み、さまざまな課題が浮き彫りになるなか、マクニカはフレイル予防の幅広い普及が、人々の健康寿命の延伸に寄与するとともに、課題解決の糸口となることを信じてやみません。

マクニカは、今後も自治体やスポーツ関係者などと共に人々の健康を考え、最適な取り組み推進のために伴走していきます。



■「MAQUP」の詳細はこちら

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