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元わさび営業マンが語る! ~私がマクニカで、わさびと再会できたワケ~

元わさび営業マンが語る! ~私がマクニカで、わさびと再会できたワケ~

皆さんは、わさびはお好きですか? お寿司やお刺身を食べる際によく使われるため、人生の中で一度は口にしたことがあるという方は多いと思います。あの鼻にくる「ツーン」とした独特の感覚は、一度体験するとなかなか忘れられませんよね。

マクニカでは世界の食と農を支える技術革新「フード・アグリテック」を推進する事業部を2022年から立ち上げ、その取り組みのひとつとして、世界中へ高品質なわさびを安定供給するコンテナ型植物工場を、パートナー企業様と共同開発しています。

今回はマクニカがわさび関連の事業を始めるきっかけとなった立役者、小出(こいで)に、自身の経歴も含め、わさびやフード・アグリテック事業部への想いを語ってもらいました。

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目次

「好き」が仕事の原動力

――小出さんは「元わさび営業」とうかがったのですが、前職は具体的にどんな仕事をしていたのですか?

小出:色々な調味料を扱っている会社で、私はお刺身やお寿司のパックに入っているような、わさびの小袋を鮮魚店さんやお肉屋さんなどに販売していました。12週間に1回くらいのスパンでお客様を訪問し、商品を提案して導入してもらうという。いわゆるルートセールスですね。

子どもの頃からお刺身やお寿司がすごく好きで、鮮魚の食文化を彩っているわさびにも興味があったんです。自分の好きなものの延長線上ならモチベーション高く仕事に取り組めるし、お客様の課題に対して提案を行い、一緒に解決する営業という仕事が面白そうだと思って挑戦したのがきっかけです。

――そこから、なぜマクニカに転職されたのですか?

小出:販売できる製品の幅が広い商社に魅力を感じたからです。私はもともとオーディオ・カメラといった電子機器が大好きで、それらのコアに使われている色々な半導体を、多様なお客様に提案できるところが面白そうだなと。わさびの話と同じで、これも好きなものの延長線上ですね。あと異業種に挑戦するなら、やはり若いうちのほうがよいと思ったのも理由のひとつです。

――入社当初は、どういった業務を?

小出:半導体部品、主にLEDのチップの営業担当になりました。入社する際に「新しいこと、ワクワクすることをやりたい」という意向を会社に伝えていたのですが、そこをしっかり汲み取ってもらい、代理店契約を結んだばかりのLEDサプライヤーの営業を任せてもらったという流れですね。異業種からの転職で、入社早々新しい仕入先の営業担当になれるのは、なかなか珍しいことだと思います。面接で聞いていたマクニカの企業文化の一つである「権限委譲」とは、こういうことだったのかと(笑)。

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ワクワクを胸に、新規事業にレッツトライ!

――マクニカ社内の新規事業コンペでは、植物育成用のLEDをベースにした案を提出されたとか。

小出:もともとは産業機器や車向けのLEDをメインに販売していたのですが、「LEDを新しい市場に売り込んでいきたい!」という思いもあったんです。そんななか、特に海外で植物工場の市場がすごく大きくなってきていることを知って。世界的な異常気象や人口増加による食糧の課題が顕在化するなかで、環境に左右されにくく、安定的に栽培できる植物工場は今後さらに成長する分野と感じました。

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小出が提出した企画書の一部(企画の趣旨はSDGsの2・13・14・15に該当)。


社会課題の解決を目指すマクニカとして、そんな植物工場について色々と調べるうちに、これまで培ってきたセンサーやAIといった、ハードやソフトの知見を活かせることが分かりました。しかも、サプライヤーが植物の成長に適した光を出せるLEDをちょうど取り扱っていたんです。

国内でも植物工場の普及は徐々に進んでいましたが、レタスなどの葉物野菜以外も含めて、これからはより市場が大きくなると見込んで、本格的に動き始めようと思ったのがコンペ提案のきっかけですね。

――ご自身の案が採用された決め手は、なんだったと思いますか?

小出:植物工場の必要性に対する共感もあると思いますが、最大の要因は、新しい事業に挑戦するワクワク感を買ってもらえたことですかね。「スマート農業にはまだまだ未知のポテンシャルがある。マクニカの強みを活かして挑戦してみよう!」という。

――まさに、マクニカのパーパスですね。

小出:そうですね。他にも具体性のある案はあったのですが、最終的には私たちのチームの案が採用されました。差分を考えると、面白さが決め手だったのかなと思います。周囲の反応もすごく好意的で、私とは別の半導体チームが「こういう提案もできるんじゃないか」という意見をくれたりもしました。

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――その後、身の回りでどんな変化がありましたか。

小出:事業の走り始めはプレゼンを行ったチームだけで調査を進めていましたが、新規事業ということで社内に広く周知した結果、まったく別の事業部とのつながりができました。最初は農業や新規事業立ち上げの知識がまるでなかったので、皆さんのおかげで農業についての課題を知ったり、新規顧客の開拓ができたりしたことを本当にありがたく思っています。

――その後、マクニカでは新規事業として2022年にフード・アグリテック事業部が立ち上がりました。最大の要因はなんだったと思いますか?

小出:あるとき、思い切って農業系の展示会に出たことですね。そこで私たちが扱っているLEDや、AIによる植物の生育状況分析などに、結構ニーズがあることが分かったんです。そういった実績を積み重ねていけば、事業として成り立つ可能性があることを、具体的な引き合いの数や案件の見込み金額といった数値で、示せるようになったことが大きかったかなと。

展示会に出たのはまだ世界で猛威を振るった感染症の影響が大きい時期でしたが、たくさんのお客様がブースに来てくださり、色々な方と知り合うことができました。

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――やはり、マクニカが大切にしているチャレンジ精神が奏功したわけですね。

小出:そうですね。マクニカは農業分野ではルーキーですので、展示会に出ても名前を知っている方はほとんどいませんでした。逆に名前を知っている方が来ると、「え、マクニカが農業!?」みたいな感じで、すごくビックリされました(笑)。フード・アグリテック事業の立ち上げは、それくらいに挑戦的な取り組みなんだなと感じました。

新規事業立ち上げのときって社内決済をとったり、調査や提案の準備にも膨大な時間がかかったりするのですごく大変なんですけど、目先の困難にとらわれず、ワクワクする気持ちを忘れないことが一番大事かなとも思います。

わさびと運命の再会!?

――植物工場でいえば、NEXTAGE様との取り組みが印象的です。

小出:新規事業に挑戦していくなかで、「やっぱり目新しいことをやりたい!」という思いが自分の中にあり、珍しい植物の育成に取り組んでる会社を探していたんです。そうしたら、ちょうど前職で扱っていたわさび、しかも最高級品の真妻わさびの人工的な栽培に挑戦しているベンチャー企業があることを知って、ホームページの代表アドレスからコンタクトしたのがすべての始まりでした。

――ここでわさびに再会するとは、なんとも運命的ですね(笑)。

小出:はい(笑)。NEXTAGE様も、わさびに関わっていた者からの問い合わせは意外だったのではと思います。けれどその分、お互いのつながりも深められたのかなと。

NEXTAGE様には当初、私たちの主力製品であるLEDやセンサーといった製品を提案していたのですが、そうしたハードウェアはすでに最適なものをご手配済とのことでした。そこで別の課題をヒアリングしたところ、「わさびの生育状態をちゃんとモニタリングしたい」という要望が挙がってきたんです。もともとはWebカメラで撮っているだけでしたが、さらにシステムで解析することで、業務を効率化したいと。

そうなると私たち半導体のチームだけでの解決は難しかったので、マクニカでAIを扱っている事業部にも参画してもらいました。結果、わさびの成長状況を細かくモニタリングしたり、わさびが病気になった際にアラートを出すといった仕組み作りの協業が始まり、現在に至るまで、さまざまな取り組みをさせていただいています。

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わさび栽培用コンテナ型植物工場の外観。
水、温度、CO2LEDなどを制御する環境制御型農業によって、再現性の高い栽培が可能です。

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わさびを生育しているところ。
日光ではなく、植物育成にあった波長のLED光を照射し栽培します。

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――農業の事業を始めてみて、どんなところが大変でしたか?

小出: 誰もスマート農業に関するノウハウをもっていなかったことですね。実家が農家の社員はいるのですが、スマート農業はやっていなくて。私たちは「スマート農業の提案は世間に響く」という仮説はもっていたものの、お客様の課題にフィットしたものを提供できるかどうかは、また別問題だと思いました。

私は営業として、お客様の商品に興味をもつことが大事だと考えています。たとえば前職では、お客様が売っている鮮魚を実際に食べてみたり、お寿司を買って帰ったりして、そこから話を広げていました。そういった行動はお客様も見てくれていますし、提案する相手と目線を合わせることで、「こちらのこともちゃんと考えてくれているな」という想いが伝わります。

さすがに半導体部品ではまったく同じようにはいきませんが、お客様の商品をよく知ることは常に心がけています。そのためには、これからも農業に関わる方との接点を積極的に増やして、課題の調査や事業として成り立つ取り組みを検討し、お客様に利益をもたらす必要があります。そういう意味でも、新たな出会いがある展示会の存在は大きいですね。

最高級の真妻わさびを、1人でも多くの方に届けたい!

――今後はどんなことを実現したいですか?

小出:本わさびの中でも最高級とされている「真妻(まづま)」という品種のわさびを、より多くの方に知って、味わってもらうことに貢献したいです。高級なお寿司屋さんや料亭などでプロの料理人が使うだけあって、香りも味もすごく良いのですが、成熟するのに結構時間がかかるので、台風や野生動物の被害にあったりして、収穫量が安定しないという問題を抱えています。

本わさび栽培は基本的に水がきれいな山奥で行われるのですが、裏を返すと、自然災害に遭いやすいんです。あと、少子高齢化の影響で農家の方が減っているのも収穫量が少なくなっている要因のひとつですね。

そこでNEXTAGE様と協業で開発しているコンテナ型植物工場を活用し、おいしくてフレッシュな真妻わさびを安定的に生産できるシステムを提供したいと考えています。また、この植物工場をうまく活用して、真妻わさびのブランドや価値は守りつつも、その存在をもっと世の中に広めたいですね。コンテナ型植物工場を展示会に出展した際にも、たくさんの方に興味をもっていただけており、話題性があることを肌で感じています。

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――「真妻わさびって聞いたことあるぞ!」みたいな方がもっと増えるといいですね。

小出:そういう世界にしたいですね。おそらく、多くの方がイメージされるわさびは回転寿司屋で出されるものや、お刺身についている小袋だと思うのですが、実はそれらに使われているわさびは、大半が本わさびではなく、西洋わさびなんです。日常で真妻わさびを口にする機会は少なく、食べたことがない方もいらっしゃると思います。なので、ぜひ皆さんに真妻わさびの良さを知ってもらいたいですね。

――食べたくなってきましたね(笑)。出回る時期は決まっているんですか?

小出:収穫は年中できますが、多くの方が良い刺身を買う年末は値段が高くなりますね。「実生(みしょう)」という一般的な本わさびが1キロで1万円くらいなのに対し、真妻わさびは1キロで23万円くらいします。値段は時期や収穫量、産地によっても変わりますが、真妻わさびはだいたい実生の2倍くらいの相場と思います。

――最後に、わさびの魅力を熱く語ってください。

小出:(笑)。やっぱりわさびは、西洋わさびと本わさびを食べ比べると全然違うと思います。後者は鼻にツーンとくる感じだけでなく、本わさび独特の芳醇な香りを感じられますね。真妻わさびの場合は特に、辛味と香りのバランスが絶妙です。

あと、すり下ろし方でも大きな違いが出ますね。こだわる人だと、通常のおろし金ではなく、鮫肌みたいな目の細かいものを使って、「の」の字を描くようにすり下ろします。そうするといい感じにわさびの細胞が壊れて、辛味と香りが引き立つんですよ。種類だけではなく、食べ方ひとつでも味が変わるところが面白いし、奥が深いですね。

日本食を昔から彩ってきた本わさびですが、最近はお刺身やお寿司だけでなく、「良いお肉にはわさびだよね」という考え方も一般的になってきています。また日本食が世界でポピュラーになると共にわさびの認知度もすごく高まっていて、フレンチやアジア料理でもよく使われている印象です。

私はわさび栽培用コンテナ型植物工場をもっと普及させて、海外でも日本でも、どこでも安定して良い真妻わさびを作れるようにしたいです。そして、これからも真妻わさびの知名度を高めていきたいですね。

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まとめ

今回はちょっぴりドキュメント風な、社員の経歴も交えたインタビューとなりました。彼らの提案から新たな可能性が切り拓かれるのは、常にチャレンジ精神を重んじるマクニカならではだと言えるでしょう。また本記事でわさびについて興味をもたれた方は、ぜひ一度、真妻わさびを召し上がってみてはいかがでしょうか。

フード・アグリテック事業部では今後も世界の食と農を支援すべく、最先端の技術と知見を最大限に活かし、さまざまな活動を推進してまいります。


■マクニカは「フード・アグリテック事業」で、未来の食と農を支えます!

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