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次世代に豊かな地球環境を残す! ~サーキュラーエコノミー実現に向け、企業がいまできること~ 

次世代に豊かな地球環境を残す! ~サーキュラーエコノミー実現に向け、企業がいまできること~ 

2015年、国連総会で「SDGsSustainable Development Goals)」こと「持続可能な開発目標」が策定されました。2030年に向けた17の国際目標に対し、皆さんの会社でもさまざまな取り組みをしていることと思います。 

マクニカでは課題解決のひとつとして、ものづくりなどに使われる資源を循環させ、地球環境を守るサーキュラーエコノミー(循環型経済)の実現を目指しています。 

今回は、マクニカで「サーキュラーエコノミービジネス部」の部長を務める脇坂 正臣(わきさか まさおみ)に、昨今の地球環境やサーキュラーエコノミー実現に向け、企業ができることを聞きました。 

目次

もはや待ったなし...資源枯渇や地球温暖化の現状

――サーキュラーエコノミーは、なぜ現代に求められているのでしょうか。 

脇坂:一番の理由は、化石燃料や鉱物といった資源の枯渇に対策が必要だからです。地球から採取できる資源に限界があることはみんな分かっていたけれど、枯渇を防ぐための活動が充分ではなかったんです。いまを生きる私たちはもちろんのこと、将来を担う子どもたちも含め、どこかで幸せではないときが訪れることを身近に感じています。 

これまでは多くの資源や製品が循環しない、つまり一方通行で消費され、やがて廃棄される「線形経済」が中心でした。たくさん採って、たくさん作って、たくさん棄ててきた。その結果、資源の不足や、CO2をはじめとした温室効果ガスがものづくりの過程で生じることによって、地球温暖化などの問題が起きています。 

資源を守るために、作るものを減らすことが重視されるようになってきたのは最近のことです。身近な例だと、複数人で1台の車を利用するカーシェアがあります。またハードウェアなどについても、新製品が出た際にすぐ古い製品を棄てるのではなく、ソフトウェアのバージョンアップや、修理によって使い続けようという動きが見られます。 

昔から行われている取り組みとしては、リサイクルが該当します。近年ではプラスチックもただ燃やすのではなく、たとえば発電機や車両などさまざまな用途で燃料として使えるオイルに変えることで、再生可能エネルギーとして利用されています。 

このように可能な限りリサイクルをしていき、どうしても処理しきれないものだけを廃棄することで資源を守り、社会を発展させていく。これが循環型経済と呼ばれるものです。その大切さは、みなさんにも感じるところがあるのではないでしょうか。

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――サーキュラーエコノミーは、地球の環境問題にも密接に関係があるそうですね。 

脇坂:環境問題の代表的なものとしては、地球温暖化が挙げられます。 JCCCA(全国地球温暖化防止活動推進センター)は、1991年から2020年における世界の平均気温偏差を過去100年と照らし合わせた場合、平均気温が1.28度上がったというデータを出しています。さらに1850年から1900年を基準として、2100年までの世界平均気温の変化を予測した場合、最大で約5.7度上昇するとも言われています。過去には、環境省が「2100年の天気予報」をシミュレーションした動画を公開したこともありました。 

地球温暖化が進むと、気温の上昇と共にさまざまなことが起こります。 

たとえば、海面の上昇により島国の沿岸部で洪水が起こったり、国によっては数年後に国土全体が水没したりするとも言われています。また、水不足も深刻な問題のひとつです。世界人口の6分の1は氷河や雪解け水を飲み水にしていますが、温暖化によってそれを得られなくなるのです。食糧不足による飢饉も、国によって顕著になりはじめています。 

さらに日本でも起きていることとして、海水温の上昇や海洋の酸性化があります。地球温暖化による海水温の上昇は、海中から海藻がなくなることで砂漠のようになってしまう「磯焼け」を日本各地で進行させている原因のひとつと考えられています。 

海洋の酸性化は、大気中のCO2が海に溶け込むことで進行します。現在の海面付近の環境下では、水素イオンの濃度が充分に低いため、炭酸カルシウムの飽和度が高く、プランクトンやサンゴなどの生物は、その骨格などを作ることができます。 

しかし海洋酸性化が進んで海水中の水素イオンが増えると、炭酸イオンの濃度が下がり、炭酸カルシウムの殻の形成が困難な環境となります。そうなると、プランクトンやサンゴが死滅して、今度はそれをエサにしている魚がいなくなる...といった具合に生態系や食物連鎖が崩壊します。 

ほかにも、温暖化で南米やアフリカにしかいなかった「蚊」、つまりマラリア(感染病)の媒介が北上してくる可能性があります。これにより、多くの命が失われるかもしれません。 

こうした状況を打破すべく、それぞれの国が2030年に向けてさまざまな取り組みをしています。 

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2050年までに「カーボンニュートラル」を達成せよ!

――事態の深刻さがうかがえます。こうした問題に対して、いまどんな対策が行われているのでしょうか。 

脇坂:まず日本全体としては、2050年までにCO2排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」の達成が目標とされています。「実質」というのは、カーボンクレジット(※1)の購入による相殺分も含めます。 

※1:CO2(を含む温室効果ガス)を排出する権利を、主に企業間で売買する制度。

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(出典:環境省 脱炭素ポータル) 

カーボンニュートラル達成のため、日本の各自治体には具体的なスケジュールやアクションの策定が求められており、中央省庁もこの行動促進のために補助金を出しています。自治体が太陽光や風力などの再生可能エネルギーを生み出す発電所を作り、その電力だけでやりくりできるようになれば、CO2排出量を削減できます。 

また、省エネも重要です。エネルギー庁は日本の消費電力の80%は冷暖房などの空調と照明が占めていると発表しており、これらをいかに減らすかが求められています。たとえば空調ならシステム制御によって消費電力を抑えられるものに、照明なら高効率のLEDに換えるといった具合です。中央省庁は、こういった取り組みに対しても補助金を出しています。 

一方で確実だと言われているのが、企業や個人が支払う「炭素税(※2)」の導入です。このように国からの補助や制度の取り決めなど、さまざまな取り組みがなされています。 

※2:環境破壊や資源の枯渇に対処する取り組みを促す「環境税」の一種。具体的には、石炭・石油・天然ガスなどの化石燃料に、炭素の含有量に応じて税金をかけて、化石燃料やそれを利用した製品の製造・使用の価格を引き上げることで需要を抑制し、結果としてCO2排出量を抑えるという経済的な政策手段(JACSESホームページより)。 

企業の観点では、東証による2021年6月のガバナンスコード改訂はインパクトが大きかったと思います。これにより、世界中のあらゆる企業がTCFD(※3)の提言に基づき、自社のCO2排出量の開示を求められます。ちなみに上場企業に関しては、より高水準(詳細)な内容の開示が必要です。 

※3:Task force on Climate-related Financial Disclosures(気候変動関連財務情報開示タスクフォース)の略。気候関連のリスクや機会に関する企業の財務情報を作成・開示することで、投資家が重大なリスクや機会を適切に理解できるよう支援することなどが目的。 

CO2(を含む温室効果ガス)の排出量を算定・報告するための国際的な基準としては、2011年10月に公表された「GHG(Green House Gas)プロトコル」が使われています。GHGプロトコルでは、1つの企業の排出量(直接排出)だけでなく、サプライチェーン全体の排出量(間接排出)も重視されます。 

具体的には「Scope1(直接排出量)」「Scope2(間接排出量)」「Scope 3(その他排出量)」の3つの区分があり、その合計がサプライチェーン全体の排出量となります。 

たとえばICチップのような小さな製品1個を作るにしても、製造はもちろんのこと、輸送中など、あらゆる工程の排出量がカウントされるわけです。 

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――途方もない話ですね。 

脇坂:すごいことになっていますが、ここまで徹底的に見える化をしなければ、1800年代の水準までCO2を削減することができない状況なんです。業界によっては、元請け企業が下請け企業CO2排出量を確認する必要もあるでしょう。つまり、社会全体の構造としてCO2排出量を開示できる状態にすることが求められているんです。 

開示の実現はとても大変ですが、CO2を大量に排出しながらものづくりをしている企業の商品は、やがてお客様に受け容れられなくなると思います。価格・納期・品質といった、これまでの商品選びの基準に、CO2排出量が新たに加わるということですね。 

各企業もすべての規定に対応していたら商売あがったりという現実もあるかと思いますが、やはり大きな流れはカーボンニュートラルや資源循環に向かっているため、環境を守ることに本気で取り組むことが求められています。 

はじめの一歩は「見える化」から

――カーボンニュートラルを実現するためには、どうすればよいでしょうか。 

脇坂:まずは、自分たちのCO2排出量を知らなければなりません。それを見える化をすることではじめて、取り組むべき課題が分かるからです。また消費電力の多くを占める空調や照明の省エネ化も大事ですが、企業によっては、取り組むべき課題がそれ以外のところにあるかもしれません。 

たとえば、石炭を燃やして使う業種はCO2排出量がとても多いので、代わりに電気を使うケースも増えてきています。その電気の発電にも化石燃料が使われることがありますが、その代わりに太陽光発電などで得た再生可能エネルギーを使えば、CO2排出量を削減できます。このように自分たちの課題を知り、カーボンニュートラルの実現方法を検討することが大切です。 

――見える化をするためには、何が必要ですか? 

脇坂:専用システムの導入が必須です。たとえば工場の消費電力ひとつをとっても、A工場の空調は○○、B工場の照明は○○...といった具合に、個別に調査する必要があります。また工場によっては電気のみではなく、重油や軽油などの消費量を見なければいけないこともあります。 

こうしたデータを採るための仕組みを、エネルギーマネジメントシステム、またはエネルギー監視システムと呼びます。 

一般的な家庭では、契約している電力会社からの伝票には、家全体で消費した電力が記載されていますよね。だから消費電力は冷蔵庫が多いのか、クーラーが多いのかが分からない。しかし、企業がCO2排出量を開示する際はそのようにざっくりとした計算ではいけないので、エネルギーマネジメントシステムが必要なんです。 

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――導入している企業は増えていますか? 

脇坂:増えています。今までは、そういったシステムの運用などにかかる費用が余分なコストでしかないという企業も少なくありませんでした。しかし、今後はしっかり分析をしなければ炭素税を支払うことになったり、信用問題に関わったりするので、必要経費として見なさなければなりません。 

また昨今のエネルギー高も、エネルギーマネジメントシステムによる管理の重要性を後押しする要因のひとつです。「電気代は必須の支出だから仕方ない」としてきた企業も少なくないと思うのですが、直近だと価格が1.5倍~2倍以上になっているケースもあり、その分が利益から減ってしまうので、省エネに取り組まざるを得ないわけです。 

先行投資はかかりますが、省エネには自家発電が有効です。たとえば大きな工場が屋上全体に太陽光パネルを設置すれば、大量の電気を作れます。さらに蓄電池という巨大な電池に充電した電気を貯めれば、夜や曇りのときでも電気を使えます。 

最近は蓄電池の価格も少しずつ安くなっているし、カーボンニュートラルを目的とした自家発電用の商品もいろいろと出ているので、導入する企業が増えています。自家発電の規模によっては電気代が無料になるので、長い目で見れば投資は十分回収できるでしょう。また自家発電した電気でやりくりする場合、どの程度電力が足りていないのか、どこに使えばいいのかなどを確認する際にも、エネルギーマネジメントシステムが活躍します。 

さらに、今後は電気のやり取りが可能になる点も重要です。これまでの電気は電線から主に建物に落ちてくるのが基本でしたが、今後は国が規則を変更し、作った電気を電線に流す逆潮流ができるようになります。つまり、電気が余っている企業は別の企業に電気を売ることができるので、やり方次第では投資に対しての償却もできるわけです。こうした事情を鑑みれば、エネルギーマネジメントシステムも導入しやすくなると思います。 

――省エネに関して、個人ではどのようなことに取り組めるでしょうか。 

脇坂:たくさんあると思います。まず、使う電気を再生可能エネルギーで発電されたものにすることです。ただし再生可能エネルギーはまだ価格が高いので、一般的に普及するのはもう少し先になると思います。 

次に、車や自転車などの大きいものをなるべくシェアリングで使うことです。作るべきものが減れば大量生産を抑えられるので、その分の資源やエネルギーの消費を減らせます。 

あとは、リサイクル品を積極的に使うことです。トイレットペーパーなどは新品のほうが使い心地はよかったりしますが、みんなで取り組めば、やはりCO2排出量削減や資源温存の面で大きく貢献できると思います。リテラシーの高い企業だと、コピー紙はリサイクル品しか使ってはいけないというところもあるようです。1人ひとりの力は小さいかもしれませんが、地球全体で見れば大きな力になりますね。 

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世界最大の問題、ゴミの処理も資源循環で解決

――リサイクルの話も何度か出ましたが、資源循環についてはどのような課題がありますか? 

脇坂:いま、世界でゴミの処理が最大の問題とされています。2023年5月に広島で開催されたG7では、海洋汚染が議題に挙がっていました。世界の国の多くは、ほぼすべてのゴミを土地に埋め立てています。それらが雨などで河川に流れ出すと、毒物やプラスティックなどにより生態系の破壊や資源を採取できなくなるなどの問題が起こるため、ゴミを埋め立てする前にリサイクルやリユースといった対策を考える必要性があります。 

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また、SDGsの目標のひとつに「飢餓をなくそう」というものがあります。これを達成するには食べ残しをなくすなど食糧を大切にすることが不可欠ですが、昨今は日本だけで見てもかなりの食糧残渣(※4)が出ています。食糧残渣は業者が回収して焼却炉で燃やすので、CO2排出につながります。 

※4:食品由来のゴミ。 

さらに各国の食糧不足で、農業で使う肥料や、豚・牛の飼料の価格も高騰しています。日本はこれらをほぼすべて輸入に頼っているので、支出もどんどん増えているわけです。 

そこでマクニカでは、食糧残渣を活用した資源リサイクルを行っています。 

この取り組みでは、まず企業から毎日何十トンと廃棄される生ごみを乾燥減容機と呼ばれる機械に入れます。この装置は、生ごみから99%以上の水分を分離し撹拌することができます。水分がなくなったゴミはパウダー状になり、重量や体積が少なくなるので、ゴミを運搬する車両のガソリン消費量とともに、CO2排出量が大きく減ります。さらにこのパウダーは飼料にもなりますし、発酵させると、堆肥になります。これを農家に提供して野菜づくりに活用してもらい、できた野菜が売られるという流れです。 

一般的に野菜の栽培には化学肥料が使われるのですが、それらにはCO2の300倍の温室効果ガスを発生させるN2O、亜酸化窒素が含まれています。積極的に生ゴミ由来の堆肥を使用することでリサイクルが確立され、ゴミの廃棄にかかっていた何千万円というコストやCO2排出量を極限まで減らせます。なにより栽培の過程でN2Oの発生を抑制することができますし、リサイクルによってできた野菜を消費することで、地球温暖化の防止や資源循環に貢献できるんです。 

ゴミの処理といえば、ペットボトルも代表的ですね。正しく分別されていれば、リサイクルでオイルに変えて発電や車の燃料として使えますし、キャップも潰して固めればレンガの代わりになります。このようにリサイクルしたものをうまく活用すれば、新たに作るものはどんどん減っていくはずです。 

どうしても処理しきれないゴミについては、やはり燃やすことになります。しかし、そのとき大量に発生する高温の水蒸気もタービンを回して発電につなげるなど、あらゆる場面で生じるエネルギーをムダにせず、循環させていくことが大切です。 

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まとめ

私たちの大切な資源、そして地球環境を守る、循環型経済こと「サーキュラーエコノミー」。それは、いま世界が一丸となって取り組んでいるSDGsにも密接に関わるものです。

また日本では大きな目標のひとつとして、2050年までにカーボンニュートラルの実現が求められています。企業としてはエネルギーの見える化、すなわちエネルギーマネジメントシステムを導入することが、第一歩を踏み出すカギとなりそうです。 

個人でも、たとえばゴミをきちんと分別したり、少しでも電気を節約するなど、できることは身近に多くあります。未来の地球を守るため、ちょっとだけ意識を変えてみると、また違った世界が見えてくるかもしれませんね。 




■マクニカ サーキュラーエコノミー事業 Webサイト

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