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「センサー×ロボット」で高齢者をサポート! 〜迫りくる高齢化社会に向けたソリューションを共創〜

「センサー×ロボット」で高齢者をサポート! 〜迫りくる高齢化社会に向けたソリューションを共創〜

日本では、少子高齢化による労働人口の減少が叫ばれています。そんななか深刻化しているのが、高齢者施設における介護スタッフの不足です。この課題は、施設入居者の安全をおびやかす要因にもなりかねません。

たとえば、加齢によって暑い・寒いという感覚が鈍くなった高齢者は、施設の空気質(部屋の温湿度など)を自身で適切に管理することが難しくなります。そのために、介護スタッフの手を借りる必要がありますが、人手不足の状況では介護スタッフの負担が大きく、手が十分に回らない可能性も考えられます。

実際、「高齢者が夏場にエアコンを点けていなかったり、逆に暖房を点けたりして熱中症になった」などのニュースを耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。

マクニカはそんな状況に一石を投じるべく、最先端テクノロジーによる高齢者の自立的な生活習慣をサポートする仕組み作りに取り組んできました。

またその一環として、「コミュニケーションロボットの力を借り、自然な形で入居者に行動を促す」という実験を、ユカイ工学株式会社(以下 ユカイ工学)と協業して行っています。

今回は新事業本部の林 雅幸が実証実験についてどのような考えのもと、事業展開しているのかを解説しております。

目次

高齢者施設の課題は温度・空気質の管理

──今回は高齢者施設での実証実験ですが、こうした施設にはどんな課題があるのでしょうか?

林:住宅型老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅などの施設は、要介護度の低い方々を対象に作られているので、常駐スタッフが少ないのが特徴です。しかし、入居時には介護がほとんどいらなくても、年月がたつと、個別のサポートが必要になる方が増えてきます。

個別にサポートをしなくてはいけない点の一つが、部屋の温度や空気質の管理です。高齢になると寒さや暑さに気付きにくくなり、温度管理が難しくなります。真夏でもエアコンをつけずに過ごして、熱中症や脱水症状になってしまう人もいるんです。
また、高齢になって鼻が敏感ではなくなってしまった方は、部屋の臭いに気が付かなくて換気をしないこともよくあります。部屋を閉め切っていると臭いがこもるだけでなく、CO2濃度が高くなります。

施設のスタッフは部屋を訪問するときに温度や空気質をチェックし、エアコンを入れたり窓を開けたりするように声をかけています。ただ、多くの手間がかかるし、いつも気にかけていなくてはいけないので、時間的にも心理的にも負担が大きいです。スタッフの負担を減らしつつ、入居者が快適に生活できるようにする仕組みが必要です。

──その課題を解決するために、マクニカとユカイ工学が協業して取り組んでいるのですね。

林:はい。私たちマクニカは「安全安心で快適な暮らしを創る」というマテリアリティの実現を目指して、ヘルスケア事業に取り組んでいます。介護の領域では、ベッドセンサーを利用した次世代見守りシステムなどを開発してきました。また、空気質センサーの「AiryQonnect」はすでに高齢者施設に導入されている実績があり、さらなる活用の方法を探していたところでした。

ユカイ工学は、コミュニケーションロボットの開発に強みを持つ企業です。介護の分野で活用するのにふさわしい「温もりを与えるロボット」を作っています。

今回の共創事業のコンセプトは、「住宅型高齢者施設の入居者やスタッフの安心・便利をユカイに実現」です。マクニカのセンサーと、ユカイ工学のロボットを連携させて、高齢者施設の課題を解決するサービスを開発しました。

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データ活用のポイントは「ロボットで感情を動かすこと」

──ユカイ工学と共創することになった経緯について教えてください。

林:きっかけは、神奈川県主催の「ビジネスアクセラレーターかながわ(通称:BAK...バク)」でした。大企業とベンチャー企業の連携によって新たなソリューションを生み出そうという、オープンイノベーションの取り組みです。

マクニカは、高精度なセンサーをいち早く導入し、センサーのデータを解析するための技術を磨いてきました。しかし、データを解析するだけでは、何かに還元することが出来なければ、宝の持ち腐れになってしまいます。そこで、「データ」と「人」を直接つなげられるソリューションを持っているパートナーを探すために、BAKに参加しました。

──さまざまなベンチャー企業から提案があったなかで、ユカイ工学との共創を決めた理由は何だったのでしょうか?

林:「ロボットが話すことによって、人に行動を促せる」という点に可能性を感じたからです。センサーの測定結果をタブレットでわかりやすく見せるのも一つの方法ですが、「こういう状態なんだね」で終わってしまい、データのアウトプットが数値であったり、グラフ化されたりしても、施設の方が実際に何か行動してもらうのは難しいでしょう。

しかし、ユカイ工学のロボット「BOCCO emo」は見た目がかわいらしいし、こちらから話しかければ反応してくれるので、まるでペットのように感じられます。こういうロボットに声をかけられると、「ロボットのために何かしてあげたい」という気持ちが生まれ、行動につながりやすいのではないかと考えました。

ロボットを活用した「感情を揺さぶるコミュニケーション」は、これまでマクニカが手をつけられていなかった分野です。だからこそ、それを実現できるユカイ工学とタッグを組むことに大きな価値を感じました。


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ロボットの声掛けによる効果は?高齢者施設で検証

──実証実験について詳しく教えてください。

林:今回の実証実験では、高齢者施設の部屋にセンサーを取り付けて、温度や空気質を測定しています。測定結果に合わせてロボットが入居者に声をかけ、室温調整や換気などを促しています。

今回の実験では神奈川県内の2カ所の高齢者施設において、それぞれ5世帯の入居者にご協力いただき、居室にロボットとセンサーを1カ月間設置しました。ロボットはセンサーの測定値を基準に入居者に対して室温調整や換気を促したり、あらかじめ設定した時間に合わせて、服薬や検温などの声掛けを行ったりします。

実際にはマクニカの「AiryQonnect」が温湿度・CO2・TVOCガス・PM2.5などの空気環境を計測し、ユカイ工学の「BOCCO emo」が声とテキストで入居者にメッセージを送るという流れです。

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──実証実験を始めて、どんなことがわかりましたか?

林:最初に驚いたのは、実際に入居者の居室にセンサーを設置したところ、CO2濃度が常に 1700ppmを超えていた部屋があったことです。厚生労働省は、室内空間におけるCO2濃度の基準を1000ppmと定めています。この基準を超えると頭痛や眠気などの症状が現れ、集中力が低下する恐れがあるので、健康的な居室空間を実現するためには空気質の改善が必要です。

実証実験はまだ途中ですが、結果が出たら、ロボットを介したコミュニケーションで空気質をどれだけ改善できるかがわかるのではないかと期待しています。
 また、一部の入居者からご意見を頂いている中で、ロボットが居室にいると気持ちが優しくなった、生活の楽しみが増えたという声や、ロボットからのイベントや運動の声掛けがあることで、居室の外に頻繁に出るようになったとの声を頂いております。1ヵ月という短い実証実験の中では約3割の高齢者に限っておりましたが、一部の高齢者においてはロボットによってコミュニケーションが増え、健康生活に向けて行動変容を促すことができることを確信しました。

センサー技術で高齢化社会の課題解決に貢献

──実証実験を踏まえて、今後はどんな展開を考えていますか?

林:今回の実証実験は、センサーとロボットを連携させるプロジェクトの第一段階です。マクニカには他にも幅広いセンサー技術があるので、それらセンサーとロボットとを組み合わせていきたいですね。たとえば、転倒検知センサーや姿勢検知センサーで取得した体の動きのデータ、ベッドセンサーで取得した睡眠状況のデータなども活用し、ロボットからの声掛けの種類を増やしたいです。

最近では、「ChatGPT」のように自然な文章を生成できるAIが普及していることからもわかるように、AIの対話能力が急速なスピードで進歩しております。そして、このたび連携したロボットでも「ChatGPT」連携を開発しており、どんな質問にも自然な対話が可能なロボットが現実的となっています。近い将来、センサー技術によって居室の状況や高齢者のバイタル情報を把握したうえで最適な声掛けを行い、自然な対話の中で高齢者の健康維持や心と体の健康に向けた行動変容を促すロボットが一般的になると考えており、この未来に向けて、私たちのパーパスにもあるように"今を創る"活動をしていきたいと考えています。

また、高齢者施設とコミュニケーションをとるなかで、年齢とともに心身が衰えた状態、通称「フレイル」を予防するサービスが必要とされていることを強く感じました。マクニカには、フレイル研究の先駆者である熊谷秋三 九州大学名誉教授と一緒にサービス化したフレイルを予防するサービス「MAQUP(メイクアップ)」があります。将来的には、こういったサービスと、さまざまなセンサー技術やロボットとの連携も考えています。


──高齢化社会を見据えて、目指していることについて教えてください。

林:実証実験を実施するにあたり、さまざまな高齢者施設に伺いましたが、どの施設でも入居者の高齢化が進んでいることが大きな課題になっていました。施設スタッフの人数は限られているなか、入居者の年齢は上がり、サポートしなければならないことがどんどん増えています。まさに、日本の深刻な課題である「高齢者増加/労働人口減少」の縮図なのではないかと感じました。

課題を解決するためには、高齢者の一人一人が、ハツラツとして健康に過ごし、介護スタッフによる最低限のサポートだけで自立した生活を送れるような仕組みを作っていくことが必要だと感じています。

マクニカは、海外から最先端のセンサー技術を導入しています。センサーで取得したデータを処理するAI技術と、データを現実世界にフィードバックする手段も持っているので、CPS (※)のソリューション全体を提供できるのが強みです。今後も、ユカイ工学をはじめとしたさまざまなパートナーと共創しながら、CPSソリューションを活用し、高齢化社会の課題を解決するために貢献していきたいと考えています。

※CPS(サイバーフィジカルシステム):現実社会の現象をデジタル化し、AIなどで分析して、現実にフィードバックすることで価値を増幅させる仕組み

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プレスリリース
『マクニカ、ユカイ工学と、住宅型老人ホームの入居者の自立を促し、スタッフの業務環境を改善するための実証実験を開始~神奈川県「BAK NEW NORMAL PROJECT 2022」を活用し、マクニカが有する空気質センサー「AiryQonnect」との連携を推進~』
https://www.macnica.co.jp/public-relations/news/2023/143209/