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本州最北端 青森から起こす医療・介護・ヘルスケアのイノベーション ~慈恵会の多角的DXの取り組みと展望~

本州最北端 青森から起こす医療・介護・ヘルスケアのイノベーション ~慈恵会の多角的DXの取り組みと展望~

青森県の慈恵会グループは、思いやりの心を持って地域に密着した医療と福祉を実践することを理念として掲げ、本州最北端の地で病院・老人保健施設、介護事業所などの医療・介護・ヘルスケア事業を幅広く展開しています。

少子高齢化の波は、青森の地にも及んでいます。慈恵会では、人手不足からくる残業時間の削減や入居者の事故防止、感染防止対策などのサービス向上に積極的にデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めてきました。もともと製造業で使われてきた技術を介護分野に応用するなど画期的なものです。

マクニカは、世界のどこかに存在する最先端テクノロジーを発掘し、医療・介護分野への応用を考え、実装を進めています。この記事では、青森慈恵会とのDX共創の取り組みと効果について紹介し、今後の展開など具体的な事例、医療・介護・ヘルスケア業界における未来像を語ります。

目次

慈恵会×マクニカのDX共創パートナーとして取り組み

慈恵会グループは、青森県内において4つの医療機関と24の介護事業で医療・介護・福祉の包括サービスを提供しています。ベッド数は1110床にもおよび、これを365日24時間体制で見守っています。慈恵会は、このほかにも給食事業、外食産業、ホテルを運営する株式会社も運営し、地域包括ケアシステムを構築する有料老人ホームとサービス付き高齢者住宅、それをサポートする小規模多機能事業所や居宅介護支援事業所なども充実させています。

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慈恵会グループの事業概要図

グループの各施設において、青森慈恵会病院や青森県の奥入瀬渓流にある蔦温泉、2024年に開業予定の青森駅直結ホテルなどグループの各施設のDX導入が予定されています。このうち、介護老人保健施設の青照苑では、試験的にデジタルツインやベッドセンサー、サービスロボット、スマートグラス、臭気センサーなどの導入を進めました。マクニカは、DX共創パートナーとして、さらなるDXを共に進めています。

青照苑でのDXの取り組み状況とその効果

現在進められている、青照苑でのDXの取り組みを紹介しましょう。青照苑は定員100人(10ユニット)のユニット型介護老人保健施設です。施設は青森市にある広大な野木和公園のすぐ隣にあり、多くの緑に囲まれた環境にあります。在宅復帰・在宅療養支援を主目的とし、医療・介護・リハビリテーションサービスを提供しています。

DXで解決したい課題の1つは入浴サービスに関するものです。介護度の高い方が入浴できるようにするために平成17年に入浴棟が完成。渡り廊下で利用者を入浴棟まで搬送する必要が出てきました。入浴はこれまで火曜日と金曜日の週2回行うことにしていました。それぞれ一度に100人の入浴介助を行わなくてはなりません。すると次のような課題が出てきました。

●入居者の待ち時間が長い
●夜勤明けの残業が当たり前
●入浴パートが当時10人いたが減少する一方
●良い入浴順序を思いついても試せない

これらはすべて人手不足による課題です。職員にとって、夜勤明けの残業時に入浴を介助するのは厳しい状況でした。少ない人数でどう残業を少なくするかについて、入浴順序の変更などのアイデアを出しながら話し合っていた時に、マクニカが製造業向けにビジネスを展開するデジタルツインのソリューションを知りました。これを介護施設でも活用することでPC上で実際の入浴業務をシミュレーションできるものです。14パターン出た案の中から、4~5パターン実際にシミュレーションしてみたところ、男女の入浴順を変えれば30分短縮できることが見えてきました。

ストレッチャーで移送する人は1階が多い、車いすで移送する人は2階が多いなどの事情があります。細かい移送時間や準備の手間の積み重ねを考慮したところ、これまで考えるだけではわからなかった改善効果が可視化されたのです。

実行すると、実際に午前中30分、午後20分の時間短縮が見られました。一日当たり50分です。週2回、月8回、スタッフは15人ですので、50分×15人×8回で月に6000分(100時間)の時間短縮が実現したことになります。
「余った時間で、心に余裕をもって利用者さんに接することができるようになった」とユニット型介護老人保健施設 青照苑の介護課長である金澤氏も話しています。

こうなると、従業員にも欲がでてきて、改善提案が出されます。入浴パートに頼っていた部分を自分たちで実施するように研修したり、週2回の入浴を4回に変えたりする案も出てきました。現在、残業ゼロ、休日出勤ゼロを目指して改善中です。

他にも課題がありました。マクニカが提供するDXソリューションを活用することによって、次のように良い結果が出てきています。

●臭気センサーと脱臭装置
汚物処理室内の臭いは、特に強いものです。ところが、この装置を付けたことでにおいが収まったというアンケート結果が出ており、施設の方も驚いたそうです。

●ベッドセンサー
ベッドからの転倒事故やベッド上での姿勢変容など、センサーで知らせてくれる装置です。また、心拍数などのバイタルデータもモニタリングできるために急変時の対応が素早くできるようになるため安心感があります。リスクの高い人に絞って取り付けるところがポイントとのことです。

●スマートグラス
介護老人保健施設は集中的にリハビリなどを行い、早期に在宅に返す役割も担っています。在宅で介護をする家族に、介護の方法を言葉で伝えるのは、コロナ禍の面会制限もある中で簡単ではありません。しかし、このスマートグラスで介護方法を録画してご覧いただきながら実施することで、介護士の視点で実際に手を動かしながら介護をする状況を伝える事ができ、言葉では伝わらない細かい現場の知恵のようなものまで伝えられるので、大変効果があるとのことです。

●サービスロボット
老人保健施設を家族が訪れた際に、待たせることなくご案内できる点が便利です。コロナ禍で面会できる機会が少なくなっているので、こうした親しみやすいロボットによりできるだけ家族に施設の様子を知ってもらいたいと考えています。

●除菌LED
目に見えて効果があるわけではありませんが、こうした感染防止対策が実施されていると安心につながります。他の施設で感染対策に不安があるために青照苑への転職を検討する人もいます。

マクニカのヘルスケア事業の取り組み

マクニカが取り組んでいるヘルスケア事業の内容を説明します。マクニカの注力している領域は、薬事承認の必要な医療領域と非医療領域の2つにまたがっています。医療領域での代表的なプロジェクトは、24時間バイタルモニタリング、非医療領域では介護向け見守りソリューション、うつ予防DXソリューション、フレイル予防サービスなどがあります。

これらのソリューションの肝になるのが最先端のテクノロジーです。マクニカでは、国内はもちろん、海外の先進的なソリューションを常に探し求めています。今回はその中からいくつかピックアップします。

●MIT(Massachusetts Institute of Technology)
MIT社をはじめ、数社が共同で開発した薄型超音波画像デバイス。皮膚呼吸を妨げないゲルの上に、柔軟性を持ったピエゾ素子ベースの超音波送受信機能を乗せた、シール型デバイスです。非侵襲、リアルタイム、リモートで心臓、肺、その他臓器の可視化を可能とすることでこれまでにない臨床用途、疾患の研究に寄与する可能性を秘めています。

MIT社が開発に携わった薄型超音波画像デバイス

●Tel Aviv University
イスラエルのテルアビブ大学で開発されたシール型の生態電位計測センサー。心電計や筋電計は従来大型の装置が必要でしたが、使い捨てのシールを張るだけで計測できるようになるため、携行性が各段に良くなって多様な用途が想定されています。現在は研究用途に使用されています。

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テルアビブ大学が開発したシール型の生態電位計測センサー


これらは注目している研究中のものでしたが、社会実装が進んだスタートアップのものには、以下のようなものがあります。

●Sword Health(米カリフォルニア)
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「痛み」に注目し、2億人が苦しむ身体痛、そこから生じる抑うつ症状の改善を行うプログラムになります。身体センサーを使って理学療法士(PT)からのガイダンスを受け、オーダーメードされた痛み解消のための個別運動プログラムをオンラインで提供しています。62%のユーザーが痛みの改善に成功し、52%が不安や抑うつ気分の改善があったといいます。深刻な状態になり、高額な医療費を必要とする状態を未然に防ぐソリューションとして注目しています。

●Tliaz(イスラエル)
これは、AIを駆使したうつ病診断サービスです。従来の質問票をベースにしたような、うつの診断からさらに精度を上げる取り組みをサービス化したものです。ビッグデータを基にして診断を容易にするプログラムで、一般的に成功率25%程度と言われている対面診断に対して、60%以上の予測精度(特定のDNA分子検査を加えると70%超)になるといいます。

●NeuroAudit(イスラエル)
認知症の対策ソリューションになります。500円玉サイズのパッチのようなデバイスをつけて、そこから超音波を発生させます。アミロイドβペプチドの蓄積がアルツハイマー型認知症に関係しているというのが現在の定説ですが、これはその蓄積を阻害する効果があります。超安価の使い捨て形式にする予定ですが、ICチップであるためほかの機能も付加させることが可能で将来的にはデータ取得、フィードバック機能を持たせる構想もあるといいます。

マクニカは、各年代、ライフイベントの課題に対して対策がとれるようなソリューションを作っていく予定です。特に未病、診断、治療に関することを働き盛りの方々、高齢者の方々に対して提供できるようなサービスラインナップを形作っていきたいと考えています。

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マクニカのサービスラインナップ

慈恵会グループのような企業との共創を通じて、実際に使えるサービスを作っていく中で、医療従事者の方にベネフィットを提供しながら、患者さんやユーザーにもより快適で有用なサービスを届けていきたいです。このような活動を通じて、今後の高齢化問題の解決に役立ち、ヘルスケア、医療、介護といった個々のフィールドを横断し、生活者のライフイベントに沿ったトータルサービスの提供を目指しています。

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マクニカの目指すトータルサービスの提供

まとめ

マクニカはこのような共創の取り組みの機会を得られたことに、大きな喜びを感じています。ヘルスケア・医療・介護の領域の社会課題を、現場の方々との共創関係の中で1つ1つ解決していきます。

\本記事の内容を、動画でご視聴いただけます/

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