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国を挙げて進む脱炭素化の取り組み、鍵を握る「サーキュラーエコノミーゾーン」構築の最前線

国を挙げて進む脱炭素化の取り組み、鍵を握る「サーキュラーエコノミーゾーン」構築の最前線

気候変動被害の拡大を背景に、世界的にカーボンニュートラルや脱炭素化と呼ぶ環境配慮型の取り組みに着手する動きは世界の大潮流となっています。日本でも2020年に当時の菅内閣が「2050年カーボンニュートラル」を宣言し、脱炭素化に向かって退路を断つ形になっています。

既に環境省が指針を示しながら、地方自治体によるさまざまな動きも出てきました。気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)による情報開示の要請やIT企業によるスマートエネルギー利用支援など、民間が主導する体制も整備が急がれています。

ここでは、環境省を中心とした脱炭素への日本の取り組みについて、課題を提示し、脱炭素への指針を解説します。さらに自治体や事業者の動向を確認しながら、特に「サーキュラーエコノミーゾーン」の構築に焦点を当てながら、それを支援するマクニカのソリューションについても解説します。

目次

  • 脱炭素を環境省がリード
  • 気候変動対策の現在地
  • 自治体と民間が連携して実現するサーキュラーエコノミーゾーン
  • マクニカが実施するさまざまな支援
  • 脱炭素化は引き返せない取り組み

日本の脱炭素を環境省がリード

いま、資本主義の負の側面が凝縮される領域として、気候変動被害への注目が急速に高まっています。岸田総理大臣は自ら進める「新しい資本主義」において、克服すべき最大の課題だと説明しています。日本でも気候変動による影響は実際に、自然災害をはじめ、自然生態系、健康、農林水産業、産業・経済活動などさまざまな分野に影響を及ぼしています。例えば、支払保険金額の大きな風水災上位10件のうち、半数は2018年以降に発生していることなどにも表れています。

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2020年12月に環境省がまとめた気候変動影響評価報告書は、大雨の発生頻度の上昇や広域化による土砂災害の発生頻度増加、夏季の高水温による珊瑚の大規模な白化、熱中症による搬送者数や死亡者数が全国的に増加していること、農林水産業ではコメの収量・品質低下やスルメイカ、サンマの漁場縮小のように回遊性魚類の分布域が変化していることといった状況を挙げています。

具体的に、災害保険金の支払い増加による保険会社の経営への影響、農作物の品質悪化などによる食料品製造業への悪影響、スキー場での積雪不足などによるレジャー産業への悪影響、気候変動による紛争リスクなど安全保障への影響などが懸念されている状況です。一方で、「ピンチはチャンス」という考え方で、国は課題の存在を逆手に取り、脱炭素の推進役と位置づけています。

気候変動対策の現在地

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)2021から2022年にかけて、第6次評価報告書の第1、第2、第3作業部会報告書を公表しました。温暖化を1.5度および2度に抑えるためには、世界の温室効果ガス(Greenhouse GAS)排出量を遅くとも2025年以前にピークアウトさせることが求められています。

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2022年4月公表の第3作業部会では、需要側の緩和には、インフラ利用の変化、エンドユース技術の採用、社会文化的変化と行動の変容が含まれています。需要側の緩和によって、エンドユース部門における世界全体の温室効果ガスの排出量を、成り行きに任せた場合という意図でIPCCが示したベースラインシナリオに比べて、2050年までに47割削減できるとしています。

では、何をしていくべきなのでしょう。具体策として、世界的にESG(環境、社会、ガバナンス)ファイナンスが拡大しています。世界のESG市場は2016年からの4年間で1.5倍増えた35.3兆ドルに、日本では規模はまだ小さいものの、4年間で5.8倍増の2.9兆ドルに達しています。金融市場の資金が「脱炭素」に向かい始める中、投資家やサプライヤーへの脱炭素経営の可視化が、企業価値の向上やビジネスチャンスにつながる時代へとなろうとしています。

また、企業は、前述のTCFDに見られるような気候変動に対応した経営戦略の開示や脱炭素に向けた目標設定(SBT)などに経営課題として取り組み始めました。東証プライム上場企業は20216月改訂のコーポレートガバナンス・コードで、主要国の金融当局のTCFD提言に準拠した開示を要求されています。TCFD提言やSBTでは脱炭素経営の取り組みについて、自社のみならず、サプライチェーンの上流に加え、下流すなわち事業者の活動に関連する他社の排出を指す「Scope3」を含めて評価しています。

大企業や金融機関は取引先に排出量情報の提供や削減を求めるようになり、それが中堅・中小企業にも波及しました。また、組織の排出量に加え、製品・サービス単位の排出量を算定し、消費者などに訴求しようとする動きも見られます。「炭素中立型」の経済社会変革を実現するためには、地球温暖化対策や再生可能エネルギーなどの環境分野への取り組みに特化した資金を調達するための債券や借入を指すグリーンファイナンスと、省エネ・燃料転換などを含む着実な脱炭素化に向けて移行させるトランジションファイナンスを適切に組み合わせて推進することが求められます。

これらに加えて、幅広い分野でイノベーションが不可欠であり、これと官民の投資をつなげていくことが求められると環境省は説明しています。サステナブルな経済社会の実現と炭素中立型社会の実現には、官民の大幅な投資拡大が必要です。マクロ経済にインパクトを与えるため、若い世代によるベンチャー支援を含め、未来に向けた投資によってイノベーションを導き、日本経済が長期停滞から抜け出す突破口とすべきでしょう。

そのために、巨額の投資を国内外から引き込み、市場メカニズムを活用することが重要です。ESG金融の国際的な基準づくりへの積極的貢献や、グローバルに通用する国内ルールなどの投資環境整備を進めるべきです。

具体的な排出削減において、国際協力を進めることも重要です。省エネ、循環資源を含めて、関係者間で共有できる脱炭素でレジリエントな社会に向けた道筋を提示。例えば、アジア有志国と力を合わせる「アジアゼロエミッション共同体」の構築は、化石燃料産業からグリーンへの移行を含む事業構造の脱炭素化や国土利用、持続可能な産業の育成、人材育成・雇用創出、地域のあり方を含めて、関係者間で共有できる途上国の発展計画となります。

特に二国間での政策の対話が重要であり、日本は10カ国とハイレベルの政策対話を実施しています。例えば、ベトナムとは、チン首相が2050年カーボンニュートラルを宣言した直後の202111月の政策対話において「2050年までのカーボンニュートラルに向けた気候変動に関する共同協力計画」に合意しています。

都市の脱炭素化、強靱化も世界的に求められています。2050年までに都市部に住む人口が世界人口の68%になるとの試算があります。第6次評価報告書において、世界全体のGHG排出量の多くを占める都市において脱炭素への移行を早急に進める必要性が報告される見込みです。脱炭素で強靱な社会を実現するためには、さまざまなセクターを統合し、地域の経済や特性に応じた計画の立案と対策を実施できる地方政府の取り組みが重要です。

環境省は、日本国内の地域脱炭素ロードマップに基づくゼロカーボンシティ実現に向けた取り組み「脱炭素ドミノ」と強靱化に向けた取り組みを、国際的な都市間連携などを通じて、ODA(政府開発援助)とも連携しながら海外にも広げ、世界の地方・都市の脱炭素化・強靱化に貢献する考えです。都市間連携は、国内都市の有する脱炭素都市づくりの経験とノウハウを海外都市に移転する事業です。

関連する日本経済の課題として見ると、企業の貯蓄超過や潜在成長率の低下などが挙げられます。令和41月の経済財政諮問会議では「現預金の利活用を促すことで、DXGX投資、R&D投資や人的投資・無形資産投資を拡大し、生産性を引き上げる」としており、脱炭素化の取り組みを経済活性化の起爆剤としていく考えもあります。

環境省は2030年までにカーボンニュートラル実現を目指す脱炭素先行地域を100カ所以上創出し、さまざまな地域課題を解決することで、全国的に脱炭素ドミノを広げていきます。2022426日には、脱炭素先行地域の第一弾として26件を選定、2025年度まで年2回程度の選定を続ける予定です。神奈川県横浜市の「みなとみらい21大都市脱炭素モデル」や兵庫県姫路市の「姫路城ゼロカーボンキャッスル構想」など、各地の主要都市でも着実に取り組みが進んでいます。

自治体と民間が連携して実現するサーキュラーエコノミーゾーン

では、どのような技術を使って脱炭素化を進めるのでしょうか。具体的に注目されているものとして、次世代発電や次世代EVといった次世代発電技術が鍵を握ります。ガラス窓での発電、地域住民の足としてEV自転車によるシェアサイクル、EVカーポートと給電拠点、自動運転バスなどです。都市などの基盤上に、EV自転車などのモビリティを絡めた生活の仕組みをつくり、できるだけ地域の中で自ら再生可能エネルギーを生産する「サーキュラーエコノミーゾーン」の実現に期待が集まっているのです。

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※地域のエネルギー見える化で実現するサーキュラーエコノミーゾーンのイメージ

サーキュラーエコノミーゾーンは、グリーンな地域内産業連携エリアを推進する取り組みです。域内の商業施設や工場ビル住宅などの建物、企業、大学、公共施設、団地、個人をグリーンな経済循環でつなぐエリアを構築します。電気自動車や再生可能エネルギー発電、自家発自家消費などによる「エネルギーマネジメント」、高効率LEDや断熱性シートによってエネルギーを最小化する「省エネマネジメント」、エネルギーを再利用するために堆肥化やメタンガスを活用する「ゴミマネジメント」という3つの柱が鍵を握ります。

具体的には、地域で発生した廃棄物の域内での乾燥減容処理を促進し、廃棄コストと炭素排出を削減します。地域施設においては、太陽光を利用したシリコン発電とベロブスカイト太陽電池実証事業を組み合わせて再エネ発電を実施し、電力の地産地消を促進します。地域エネルギーを非常時は防災・避難施設電力として利用し、平常時は地域コミュニティモビリティ電源として活用します。地域の見える化を水・電気・ガス・道路・各種施設を連動して実現し、域内省エネプログラムと域内商業情報発信媒体として提供するのです。 

つまり、自治体など地域内でできるだけエネルギーを発電・利用し、足りない場合は使用するエネルギーの量を減らす、それを実現するために地域の中で誰がどの程度の電力を消費しているかを可視化する――この一連の取り組みが求められているのです。さらに、災害時の避難所となる学校や地域交流センターにおける非常時電源の確保などライフライン対策にもつながります。

マクニカが実施するさまざまな支援

ここまで見てきたように、再生可能エネルギーの活用や省エネルギーを実施するための見える化がサーキュラーエコノミーゾーンの構築など次世代の脱炭素化施策の実施に必要になってきます。マクニカは既に自治体の脱炭素事業を支援するなど、強力に取り組みを進めています。

脱炭素の基本的なステップは、対象地域の場所を決定、どの程度再生可能エネルギーを利用するかを設計し、将来的な構想を描き、PoC(概念実証)やモデル事業を開始して、エネルギー運用体制を構築するといった流れです。マクニカが支援する際に鍵となるのがツールの活用です。マクニカは、ポルトガルのCleanwattsと販売代理店契約を結び、日本をはじめとしたアジア市場で、脱炭素化社会を実現するためのエネルギー管理システム「Kisense®(キーセンス)」を提供しています。エネルギー図4.jpg

Kisense®は、工場やビルなど様々な施設を対象とした、エネルギー使用量をモニタリングするための統合ソリューションです。エネルギーを可視化、管理するソフトウェアとして、シンプルかつ直感的なインターフェースが特徴。施設に設置された各種センサーから取得したデータやスマートメータから取得した電力使用量データをクラウドに取り込み、可視化・分析することで、施設のエネルギー使用量・CO2排出量を把握し、設備運用ルールの見直しや具体的な削減目標を設定、設備機器を制御することで、施設全体の運用改善、電気代削減など、施設の脱炭素化を実現します。

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※Kisense®活用時のシステム構成例

ポルトガルのあるエネルギーコミュニティは、50の公共建築物、地方自治体の建物、図書館、講堂、パブリックマーケット、 2つの学校、スポーツアリーナにKisense®が導入されており、120人の住民が利用しています。消費者はエネルギーをコミュニティから購入し、余剰エネルギーはコミュニティ内で取引し、収益を得られるようにしています。これにより、送電網(グリッド)などの追加コストを削減できます。結果的に、消費者の電気料金を10%削減し、余剰エネルギーの取引による収益を20%増加、総電気料金を最大で10%削減できました。

脱炭素化は引き返せない取り組み

脱炭素化への取り組みについて、これまで日本企業は消極的というイメージを持たれることもありました。しかし、202010月、当時の内閣総理大臣である菅義偉氏は「2050年カーボンニュートラル」、脱炭素社会の実現を目指すと宣言しました。今後、脱炭素化の取り組みに消極的な企業には、「炭素税」の支払いなどが課される可能性があります。またTCFD提言に沿った情報開示である「TCFD開示」が求められるなど、実質的なペナルティともいえるような負担が課されることも考えられるのです。

長期的な方向性は、世界も日本も確実に脱炭素化に向かっており、もはや引き返せるものではなくなっています。企業は従来の考え方にとらわれることなく、脱炭素化実現への取り組みに本腰を上げる必要があります。

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