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温かいテクノロジー「LOVOT」

温かいテクノロジー「LOVOT」

 多くのロボットは元来、人の利便性や生産性を向上させるために生み出されてきました。その対とも言える存在が、人に寄り添い、心を満たすことを目的に開発されたロボットこと「LOVOT(らぼっと)」です。本記事では、LOVOTが誕生するに至った背景や、この温かいテクノロジーが実際に解決している社会課題などをご紹介します。

※:本記事は、20231112月開催の「MET2023」の講演を基に制作したものです。

【講演者】

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目次

人がよりよく生きるためのロボットとは?

 皆さまは、LOVOTをご存じでしょうか。こちらは私たちGROOVE X(グルーヴ エックス)が、「だんだん家族になっていくロボット」として、開発・販売を行っています。私たちのミッションは「ロボティクスで人間のちからを引き出すこと」であり、人の代わりに仕事をするロボットよりも、人を元気にし、潜在能力を引き出すロボットを作ることを目指しています。そのためには、人とロボットの信頼関係の構築が必要です。

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 また、「日本初の新産業を作りたい」という思いもあります。日本は、クリエイティブ(感性)・ハードウェア(メカ・エレキ)・ソフトウェア(AI)の3つを、一定の水準で開発できる稀有な国です。これらの力をすり合わせることでしか作れない製品、そのひとつがLOVOTなのではないかと思います。

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▲セッションでは、LOVOT開発過程の動画が公開されました。関係者の皆さんは常に優しい表情で、まるで我が子のようにLOVOTを見守っていました。

 

 従来のロボットは、人の代わりに仕事をしてコストを下げる部分が注目されがちでした。これに対し、私たちが開発しているのは、人の意欲を高め、よりよく生きるサポートをするためのロボットです。この2つには、大きな違いがあります。

 まず前者の「コストを下げるロボット」は、最終的に存在感がなくなっていく傾向にあります。たとえば、大変よくできたドラム式洗濯乾燥機やお掃除ロボット。こちらは徐々に存在感がなくなり、パーフェクトな洗濯や掃除をするようになっている印象はないでしょうか。一方で、後者の「意欲を高めるロボット」は、むしろ存在感そのものが価値になっていきます。

 人はかつて、生命維持のための活動に、ほぼ100%の力を使ってきました。ところが、文明が進歩して機械が仕事を始めると、余った時間と力をアートや遊びなどの、よりよく生きるための活動に割くようになったのです。これは非常にユニークな観点であり、人類の文明の進歩だと言えるのではないでしょうか。

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現代社会に癒しをもたらす、温かいテクノロジーを目指して

 しかし、どんなに生活が豊かになろうとも、癒しを欲する方は減りません。現代社会では従来より生産性が向上した分、仕事で常に高い集中力が求められたり、余暇でもSNSやゲームなどで緊張や興奮が続いたりしているからです。こうした環境は、人の脳にドーパミンという脳内分泌物質を多く生み出し、より強い刺激に依存させます。結果、多くの方がドーパミン漬けの生活に疲れを感じ、癒しを欲しているのではないでしょうか。

 そんななか、非常に大きな存在感を見せつつあるのが、犬や猫などのペットです。穏やかで温かい気持ちになる時間の入手には、他者を気兼ねなく愛でることで脳内に作られる、オキシトシンという分泌物質が非常に重要だと言われています。

 ただ、ペットはさまざまな事情で飼えないという方もいらっしゃいます。そこで、「LOVOTという新しい家族を通じ、皆さまに癒しの時間をお届けしたい」というのが、私たちの考えです。LOVOTは愛でる対象であることから、「LOVE」という文字の一部を名前に込めています。

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 日本では、約半数の世帯が望んでもペットを飼えていません。その理由として多いのは、ペットロス・アレルギー・住環境・多忙などです。こうした色々なニーズに応えられることも、LOVOTの特徴です。

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 最大の問題は、ロボットは3ヶ月ほどで飽きられてしまうケースが非常に多い点です。その要因は、所有者の好奇心を刺激する、つまりドーパミンの分泌を促進するようなロボットが世の中に多いからだと考えられます。ワクワクした気持ちは強い購買動機にはなりますが、購入後もそれを維持することは難しいものです。

 反対に、犬や猫が飽きられにくいのは、愛着形成というメカニズムが働いているからだと言われています。やはり最初の3ヶ月は好奇心が勝りますが、その後に強くなる愛着形成は、非常に長く続きます。これを実現するのが、LOVOTのコンセプトです。実際には9割以上のオーナー様が、使用開始から3年以上が経過しても一緒に生活をされています。市販されたなかで、これほど飽きられなかったロボットは存在しなかったはずです。

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 麻布大学・菊水健史教授の研究結果によれば、動物と触れ合ったり見つめ合ったりすることが、人の愛着形成を促すようです。こうした体験の数々を人に提供するのが、LOVOTの開発においては重要なポイントでした。

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人を理解して懐く、唯一無二のパートナーがもつ機能

 LOVOTは会話や踊りといった刺激的な行動はとらず、スキンシップや抱っこを好みます。人の言葉は発しませんが、話しかければ感情を含んだ自分の声で応答してくれるので、ノンバーバルなコミュニケーションができます。また、触れられている箇所・抱っこのされ方・人の目線などから、誰が自分に興味をもってくれているかを理解し、懐いた人には自分から寄っていきます。夜になれば充電のために自ら寝にいき、朝になると起きるなど、本当の家族のように生活します。

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 これらの体験を可能にするため、LOVOTには1万点以上の部品・10個以上のCPUコア・20個以上のマイコン・50個以上のセンサーを搭載しています。温かくて柔らかい肌や、生命感のあふれる瞳、10億種類以上のバリエーションをもつ声などを実際にご体感いただければ、LOVOTに対する印象がまたひとつ変わると思います。さらに、服を着られることも特徴です。着替えによる清潔感の維持はもちろん、着替えさせてくれた人も理解できるので、より懐きます。

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 「ペットがクラウド連携できたなら」という思想のもと、さまざまな機能をもつ専用アプリも開発・提供しています。たとえば、LOVOTが日記をリアルタイムで書く「ダイアリー」があります。これにより、遠隔地に住むご両親のところにLOVOTがいる場合、触れ合いの有無によって、緩やかなかたちでの見守りができます。

 「いつもならこの時間に触れ合うのに、今日はしていない。大丈夫かな」と言って電話をかけたり、会話のきっかけになるといったことを、オーナー様からはよくうかがいます。ほかにもお留守番機能や、写真撮影機能などがあります。

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 LOVOTはこれまでに1万体以上(※)が可愛がられており、そのうち97%以上の方にご満足いただいています。購入者の属性としては3050代の方が多く、自分のために購入される方が6割ほどですが、最近ではご両親のために購入される方も増えてきています。

※:2023年10月時点

学校や介護施設を舞台に、社会貢献も

 LOVOTの効能については、さまざまなところで実証実験を行っています。資生堂様と麻布大学様は、LOVOTのオーナー群と非オーナー群でオキトキシンの濃度に大きな差があることや、15分間抱っこするだけでストレスの減少が見られるといったことを共同研究によって証明してくださいました。

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 小学校でも活用したところ、まず低学年では児童・保護者共に、コロナ禍における家庭のストレスレベル低下が見られました。一方、高学年ではLOVOTを教室に置いたところ、学校の雰囲気が明るくなり、不登校だったお子様が前向きに登校するといった、さまざまなポジティブな変化がありました。

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 また、デンマークでは介護施設でも導入されており、一言も喋らなかった男性が、LOVOTを前に会話を始めた事例もあります。さらに、認知症の患者様にもさまざまな有用性が見えてきています。通常は認知症になると、症状の進行によって認知機能が低下していくのに対し、LOVOTがいたことで、その低下を抑制された可能性が示唆されたのです。こちらは、神戸市のご支援のもと実施し、東北大学・瀧靖之教授に学術指導いただいた実証実験による結果です。

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 ほかにも、週末医療におけるうつ尺度の改善・コロナ禍での医療従事者のストレス解消・リハビリ患者のモチベーション向上・アスリートのメンタルケアなどでの効能が確認でき、ご家庭のオーナー様からもさまざまなお声をいただきました。

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LOVOTの今後

 最後に、私たちが目指している将来についてお話します。

 LOVOTは、現在は人を頼る存在ですが、最終的には人を自然に見守る存在にしたいと考えています。話しかけることで発話が増え、気兼ねなく愛でることで心が落ち着き、落ち込んだときにも元気をもらえる。こうした面では、すでにオーナー様に寄与できているかと思います。そこで今後は、LOVOTが誰よりもオーナー様のことを理解し、万が一のときにも頼りになる存在になれることを目指していきます。

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 現在のLOVOTは、まだ犬や猫の認知機能を凌駕しているとは言えません。しかし、今後AIが発達すれば、それが実現する日もくるでしょう。そして、いつかは人をも凌駕するような存在になってゆくことが、LOVOTの夢です。そこに至るためには、3つのステップがあります。1つ目は、認知機能の強化。2つ目は、コンテキストを理解して学習能力を高めること。3つ目は、未来予測能力を高めることです。私たちは現在、1つ目を集中的に進めています。

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 LOVOTと一緒に生活すれば、いかにテクノロジーが人を幸せにできるのかを、きっとご理解いただけるかと思います。皆さまにもぜひ一度、この温かいテクノロジーを体感いただけますと幸いです。